設計・中尾英己建築設計事務所

近年、土地活用や資産形成の手段として注目を集めている「賃貸併用住宅」。本連載では、建築家を含む専門家や実際のオーナーにお話を伺い、その魅力や活用時の留意点などを探っていく。第5回目は、建築家の中尾英己氏(有限会社中尾英己建築設計事務所)と、山本健太郎氏(有限会社Kaデザイン)のお二人に、収益を生むための賃貸併用住宅のプランニングなどについてお話を伺った。

土地から仕込んで建てる場合には十分な見極めを

――賃貸併用住宅の建築には大別して、①新たに土地を購入して建てるケース、②いま住んでいる住居の建て替えや、相続で譲り受けた土地になど、すでに所有している土地に建てるケース、の2通りがあると思います。これはどちらのケースが多い傾向にありますか?

 

中尾 いまは親御さん名義になっている土地に、将来の相続を見据えて賃貸併用住宅を建てるというケースが多いです。オーナー居住部分を、親御さんの存命中はお子さんが借りて、家賃を払って住んでいるというケースもありますね。

 

山本 新規に土地から購入というケースは少ないです。収益をメインに据えた場合、利回りが厳しいケースが多いですね。どうしても自宅がある分だけ利回りが下がるので、難しくなります。収益メインでお考えなら、ぼくの場合、最低でも表面利回りで7~8%、実質で5%以上が見込めないと、お薦めしません。

 

建築家・中尾英己 氏
建築家・中尾英己 氏

中尾 たとえば、エリアはまあまあいいけど、変形敷地などの悪条件があるので不動産業者が計画をするにはちょっと消極的になるような土地があります。そんな土地が周辺相場より1割程度安く買えるなら、共同住宅ではなくて、いわゆる長屋形式の賃貸併用住宅を建てるという手はあります。

 

また、そこまでシビアに収益性を考えず、単に木造の戸建住宅に1~2住戸賃貸住宅を作ってローン返済の足しにしたい、あるいは老後資金の足しにしたいという場合なら、新規の土地購入でもいいと思います。目的によって考え方が変わります。

 

山本 土地から購入する場合、やはり立地エリアが一番のポイントになります。もちろん、不利な立地エリアでも、企画面のアイディアや建物の設計でカバーできる部分はありますが、新規で買うのに、わざわざ不利なエリアの土地を選ぶことはお薦めできません。

 

一方で、高い収益が見込めるエリアは、当然地価が高くなり、資産をある程度お持ちか、いわゆる高属性で、融資が下りやすい方でないと購入は厳しい。そのため、土地から仕込んで賃貸併用住宅を建てるというのは、最初の計画から慎重に見極める必要があると考えています。

 

税制などもすべて勘案した最適なプランニングとは?

――住宅の建て替え、あるいは相続で、すでにお持ちの土地に建てるケースの場合は、いかがでしょうか?

 

中尾 まずその立地エリアの需要動向、賃料相場、ターゲットなどの市場調査をして、収支シミュレーション案を出します。その段階から関わるのが、当社の仕事の仕方です。

 

山本 そうですね。いきなり図面を描くわけではなく、まずエクセルでシミュレーション表を作ることから始まります。自分で現地に赴き、資料に当たったり、付き合いのある専門家のネットワークもありますから、調べてもらうこともあります。

 

中尾 調査データを基にして、ターゲットを設定し、そこにあわせて、たとえば30平米の部屋を8戸計画するのがいいか、それとも40平米の部屋を6戸計画するのがいいのか、などと考えます。それにより、建物の構造、光の採り方、税法上のことなど、たくさんの要素が変わってきます。

 

そういう段階を踏みながら、最終的なプランができあがっていきます。それらそれぞれの段階について、オーナー様にご説明して納得いただきながら進めていくのがポイントです。市場調査など曖昧にして、いきなり図面や模型を作って「かっこいいでしょう」と提案するのでは、プロジェクトとして良いものにはなりません。

 

建築家・山本健太郎
建築家・山本健太郎 氏

山本 部屋割りにしても、一部のメーカーでは、できるだけ細かく割ったワンルームにして、見た目の利回りを上げようとします。新築のときだけはそれでもいいかもしれませんが、すぐに需要が少なくなるのは目に見えています。その典型的な例が、最近事件になった某シェアハウスですよね。

 

私たちが作る建物は、そういうものとはまったく別のものだと考えて下さい。また、一定以上の広さがある部屋にすると、不動産取得税の特例が使えて、初期費用を大きく下げることもできるのですが、そういった税制なども全部勘案しながら最適なプランニングをご提案します。

 

中尾 実は、建築家の中には、デザインの作家性には優れていても、収支計算や税制にはあまりくわしくない方もいます。普通の戸建住宅を建てるなら、そういう方にお願いしても問題ないでしょう。しかし賃貸併用住宅など収益物件を建てるなら、それなりに経験があり、収益面や税制のアドバイスもできる建築家をパートナーに選ぶことが、大切なのではないかと思います。

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/海保竜平 ※本インタビューは、2018年6月7日に収録したものです。