S邸に隣接する分棟形式のアパート(神奈川県横浜市・タツミプラニング施工)

近年、土地活用や資産形成の手段として注目を集めている「賃貸併用住宅」。本連載では、建築家を含む専門家や実際のオーナーにお話を伺い、その魅力や活用時の留意点などを探っていく。第3回目は、アーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ)とタツミプランニングが共催した「建築家展」への参加をきっかけに、賃貸併用に近い形式で住宅を建てた神奈川県横浜市在住のオーナーSさんにお話を伺った。

若い人に住んでもらい、町の若返りに貢献できれば・・・

オーナーのSさんは、両親から受け継いだ土地にある自宅にお住まい。以前は敷地の余剰部分は駐車場にしていた。将来を見据えて収益物件の建築を考え、老朽化していたご自宅の建て替えも併せて、2棟を分棟形式で建設。現在はアパートに隣接する自宅で暮らしている。

 

――建築家展に行かれたきっかけを教えていただけますか?

 

「若い人が住んでくれるような建物を作りたいと思ってました」(Sさん)
「若い人が住んでくれるような建物を作りたいと思ってました」(Sさん)

Sさん この土地は父から受け継いだもので、50坪ほどの広さがあります。以前は、自宅以外の余った部分は駐車場にしていました。しかし子どもも成人しましたし、相続税制の変更が話題になったことから、4年ほど前に、将来のことを考え始めました。

 

父から「土地は手放さないで残して欲しい」と言われていたので、私の代で売るつもりはなく、なにかいいプランがないかと考えていたタイミングで、いろいろな業者の営業さんが、提案を持ってこられたりするようになりました。ただ、どうも納得できるものがない。他に相談できるところがないかしらと考えていたところに、たまたま電車広告で建築家展のことを知って、すぐにお伺いしました。

 

――他の業者さんの提案で納得できなかったというのは、具体的にはどういう部分でしょうか。

 

Sさん この周辺は、同じような時期に山を切り開いて作られた土地で、その頃から住み始めた、私と同世代の人が多く住み、高齢化が進んでいるエリアです。そのような背景もあり、どうせアパートを作るなら、元気のある若い人が住んでくれるような建物を作りたいと、ずっと思っていました。小さいアパートでも、少しでも町を若返らせて、元気にすることに役立てればいいな、と。

 

また、ここは駅から少し離れている(徒歩20分程度)割に、すでにアパートやマンションがたくさん建っています。一方で、うちの土地は、そんなに広くないですから、小さなアパートを建てたら、そこに駐車場をつける余裕がありません。駅から離れているのに、周りにこんなにアパートも多くて、しかもうちは駐車場なしで、入居者さんが来てくれるのかしらと案じていました。

 

そういうデメリットを打ち消せるような、魅力のある部屋を作りたいと思っていましたが、以前に提案を持っていらした業者さんは、私の気持ちにまったく応えてくれなくて、ただ寝に帰るような、少し面白みのない物件の提案ばかりで、これは違うなと感じていました。

 

――建築家の先生からの提案は、いかがでしたか。

 

Sさん 電車内の広告を見るまでは、建築家の先生と一緒に家を建てる、さらには収益物件を作るという選択があるなんて、まったく知りませんでしたし、素人がそんなことに関わって大丈夫なのかという不安もありました。しかし、建築家展でタツミプラニングさんから、建築家さんをご紹介されて、理想のアパートができるかもしれないという手応えを感じたのです。

 

実際には、3人の建築家の先生をご紹介いただき、私がいまお話ししたようなことをお伝えしたところ、皆さんからとてもいいアイディアを出していただけました。だから、どの方にお願いするのか、ずいぶん悩んだのですが、結局、一番個性的というか、とがった感じのデザインを提案してくれた先生にお願いすることにしました。外のバルコニーにつながるインナーバルコニーがしつらえられており、そこに床置きのバスタブがあるのが特徴でした。

 

床置きのバスタブが個性的なアパートは現在の所満室。
床置きのバスタブが個性的なアパートは、現在の所満室である。

 

入居者のプライバシーに踏み込まないように

――実際に住んでいただいた入居者さんは、当初お考え通りの方でしたか?

 

Sさん 入居者さんのプライバシーもありますから、詮索するようなことはしたくないので、詳しいことは伺っていませんが、たぶんそう(若い入居者)なのではないかと思います。1階のお部屋はウッドデッキがあるのですが、先日そこに入居者さんと仲間が集まって、バーベキューをなさっていて、その様子がとても楽しそうだったので、そのときは本当に作って良かったなと感じました。

 

――賃貸併用住宅に近い、いわゆる分棟形式で、ご自宅とアパートは隣接しています。オーナー様ご自身のプライバシー確保や、ご近所の住民の方とのご関係などで、気になる部分はありませんか?

 

Sさん プライバシーについては、私自身のことはぜんぜん気になりません。むしろ、入居者さんのプライバシーになるべく踏み込まないように気をつけています。管理会社さんに入ってもらってますので、入居者さんや近所の方とも、直接的にやり取りが生じたことは、一度もないのです。ぜんぶ管理会社さんを通じてのやり取りですから、管理面で大変だと思ったことはまったくありません。

 

――アパートを運営していくにあたっての収益性や、将来の相続時点でのシミュレーションなどは、ご自身でかなり考えられたのでしょうか?

 

Sさん そのあたりも、タツミプラニングさんからご紹介いただいた税理士さんや銀行さんにすべてお任せの状態ですね。実は、運営にあたっては法人を作ったのですが、そういう手続きなども私にはまったくわからないので、お任せしっぱなしです(笑)。

 

――お子様たちへの資産の引き継ぎも一安心ですね。

 

Sさん 私は父からこの土地を守って欲しいと言われたのでそうしましたが、子どもたちに同じことをしなさいと言うつもりはありません。ゆくゆくは彼らの好きにしていいのですが、ここまでは父の願いを叶えることができて、本当に良かったと思っています。

 

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年5月19日に収録したものです。