海まで5分の距離に建つK邸(神奈川県葉山市・タツミプラニング施工)

近年、土地活用や資産形成の手段として注目を集めている「賃貸併用住宅」。本連載では、建築家を含む専門家や実際のオーナーにお話を伺い、その魅力や活用時の留意点などを探っていく。第4回目も、実際に賃貸併用住宅を建てたオーナーさんにお話を伺う。今回は、神奈川県葉山市在住のKさんである。

建築家が考えた「コスト面」での工夫とは?

神奈川県の葉山で賃貸併用住宅を建てたKさん。大学ではヨット部に所属し、以来、ずっと愛する海の近くで暮らしてきた。3年ほど前に葉山に約40坪の土地を購入し、1室を賃貸とする自宅を建てた。今回は、設計を担当したアトリエマナ代表で建築家の河内真菜さんにも同席いただき、設計上のポイントや、完成までのプロセスなどを含めて、お話を伺った。

 

――賃貸併用住宅を建てようと思ったきっかけと経緯について教えてください。

 

Kさん 葉山に来てから18年になります。以前はもっと海側に住んでいて、最初は分譲マンション、それから賃貸マンションに住んだのですが、子どもたちも大きくなってきたし、ちょうどいい感じの分譲地があったのでそこを買って自宅を建てることにしました。

 

実は、私は仕事が不動産業界なので、ハウスメーカーさんなどもある程度は知っています。しかし自宅を建てるにあたっては、ゼロベースから調べてみようと思って、ネットでいろいろ検索して、いくつかの会社にコンタクトをして、その中から最終的にはタツミプラニングさんにお願いすることにしました。

 

当初は、普通に自宅用のみの住居を建てようと考えていましたが、タツミプラニングさんとの打ち合わせの中で「容積率や建ぺい率に余裕があるから、これなら賃貸併用住宅も可能ですよ」という提案をいただいて、「じゃあやってみようかな」と割と気軽に決めました。

 

――ご自宅部分について「こんな家を作ろう」というイメージは、最初からはっきりしていたのでしょうか。

 

海から帰宅後、そのままバスルームにアプローチできる“機能的”な作りも葉山という土地ならでは。
海から帰宅後、そのままバスルームにアプローチできる“機能的”な作りも葉山という土地ならでは。

Kさん それはあまりなかったですね。ご紹介いただいた河内先生の過去の作品をいろいろ見たり、話し合いをしていく中で、イメージを固めながら少しずつ要望を伝えていった感じです。

 

河内 K様が以前お住まいになっていらしたマンションを拝見させていただいたところ、リノベーションをして、非常に凝った内装のお部屋でした。そこでこちらとしても、新しいお住まいも、デザイン性や細部の仕様にこだわったものをご提案させていただきました。

 

Kさん その代わり予算がオーバーしてしまい、その相談はけっこう大変でしたよね(笑)。「どこが削れますか」みたいな話が続いて…。私は会社員ですから、ローンが組める予算の上限は決まっています。理想は求めたいですが、かといって予算は増やせない。河内先生にも相当がんばってもらったと思います。

 

――河内先生は、コスト的な面でどのような工夫をなさったのでしょうか?

 

アトリエマナ代表・一級建築士河内真菜 様
アトリエマナ代表・一級建築士
河内真菜 氏

河内 最初は、土地の形に合わせて、建ぺい率いっぱいに建物を建てるつもりでした。しかし、予算がオーバーするので、長方形の建物にして全体的なボリュームを落とすという骨格の部分から検討しました。また賃貸部分は、全体的な統一感は保ちながらも、よりシンプルなデザインとすることでコストを下げました。使う部材も、ご自宅部分はお好きなものを使っていただく代わりに、賃貸部分は、タツミプラニングさんが用意している標準部材を使ってコストを落としています。

 

このように、自宅部分と賃貸部分とで、コスト配分のメリハリをつけた設計をすることで、トータルコストを抑えるようにしました。これは、注文住宅を作れる技術的ノウハウと、ハウスメーカーの両面を持つタツミプランニングさんならではのメリットですね。

 

家賃収入はあくまで「おまけ」的な感覚

――賃貸部分の収益については、オーナー様のほうではどんなイメージで考えていらしたのでしょうか。

 

Kさん もちろん多少考えてはいましたが、基本的にそんなに気にしていませんでした。まず、自分の好みのこういう建物を建てたいということが大前提です。家賃収入はそのための「おまけ」的な感覚です。

 

あえていえば、2人の子どもたちは、あと10年もすれば自立して出て行くでしょう。私は65歳で会社を定年になり、妻と年金暮らしになります。そのときに、暮らしをサポートしてくれるものが少しあればいいな、という感覚です。もし、それ以前に私に万一のことがあっても、ローンは団体信用生命保険で補填され、実質なくなりますので、妻に毎月の家賃収入を残してあげられます。それならいいかな、と。

 

 

――賃貸部分について、どんな建物にしてどんな方に住んでいただきたいというような希望はありましたか?

 

Kさん この土地も併せた周辺は、もともと福沢諭吉の別荘地だったそうです。そういう土地柄もあり、海の近くでくつろいだ休日を過ごしたい方のセカンドハウスとして使っていただければいいなとは思っていました。ちょうど建てたタイミングで、東京にお住まいをお持ちの入居者さんがセカンドハウスとして使っていただけることになりましたので、よいご縁があったと思います。

 

河内 賃貸部分をどのくらいの面積割合にするかを考える際に、周辺環境とマッチさせることも重要です。たとえば、このお宅でも、賃貸部分を1階2階それぞれ別のワンルームの部屋として設計することもできたのですが、それではこのエリアで部屋を借りたいという需要の特性に合わないと思います。せっかく建築家を使って賃貸併用住宅を作るなら、プランニングの段階で、エリアごとの需要特性を加味した設計をすることがポイントでしょう。

 

――管理については、どうなさっていますか?

 

Kさん 管理会社には依頼せず、自主管理をしています。入居者さんからは、なにかの時にはおみやげをいただいたりして交流もありますし、良好な関係を築けています。ただ、これは私が不動産業界の人間なので基本的な知識があることに加えて、セカンドハウスでの利用なので、入居者さんが定住していない、というレアな事情があります。通常のケースだったら、管理会社を使ったほうがいいと思いますね。

 

小物にいたるまでオーナー夫婦のこだわりと理想が詰まった住居部分。
小物にいたるまでオーナー夫妻のこだわりと理想が詰まった住居部分。

 

取材・文/椎原芳貴 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年5月18日に収録したものです。