2017年5月、企業や消費者の契約ルールを定める債権関係規定(債権法)を見直した改正民法が成立した。本連載では、債権法の改正が企業活動にどのような影響をもたらすのか、西村あさひ法律事務所の有吉尚哉弁護士とTranzax株式会社小倉隆志社長にお話を伺っていく。最終回のテーマは、民法改正で今後、親事業者とサプライヤーの関係はどのように変わっていくかである。
商取引の「電子記録債権化」が絶対に進む理由
――最後に、民法改正後に商取引はどのように変わっていくと考えていますか?
小倉 まず、電子記録債権が浸透していくことになるでしょうね。
有吉 民法改正にかかわらず、取り引きの電子化は進んでいますので、その一環でも電子記録債権は浸透していく可能性があると思います。そのほか、冒頭に取り上げた4つの改正事項なども企業活動に影響を及ぼす可能性もあります。
例えば、債権の消滅時効の時効期間の統一化が図られることで、企業は債権・債務の管理が容易になる可能性があります。また、法定利率の5%から3%への引き下げは、損害保険会社の保険金支払額の増加に直結しますので、私たちが支払う保険料の金額にも影響が生じるかもしれません。
一定の場合には保証人を付ける際に、公証人による意思確認の手続きが求められるようになることも、金融機関の事務負担増に繋がる可能性があります。
「どんな債権でも譲渡できて当たり前」という状況に⁉
――さまざまな企業が利用している「約款」に関する改正は、最も多くの業種に影響が出てくるのでしょうか?
有吉 その可能性はあります。基本的にはこれまでの実務を大きく変える必要は生じにくいと思いますが、定型約款に関するルールが法律に明記されることにより、民法に則して約款を用いた取引を行うことが必要になります。
――では、民法改正を受けて、債権譲渡については、事業者はどのような点に留意すべきでしょうか?
小倉 債権は譲渡できて当たり前だよね、という風に認識を改めるべきでしょうね。
有吉 債務者は債権譲渡禁止特約を抗弁として主張することはできますが、譲渡そのものは有効になります。債権譲渡禁止特約の効力が弱まることにより、そもそも特約を付けることをやめてしまおうという会社が増えてくる可能性があるのではないかと考えています。
譲渡禁止特約がつけられず債権譲渡を自由に行うことができるようになれば、債権を活用したファイナンスも容易になり、民間企業の資金繰りも円滑になります。民間だけでなく公共にもこのような動きが広がっていけばTranzaxさんのサプライチェーンファイナンスにも、追い風でしょうね(笑)。
小倉 そうなることを期待しています!
西村あさひ法律事務所
パートナー弁護士
証券化、ストラクチャード・ファイナンスその他の金融取引および信託取引と各種の金融規制を専門とする。
金融取引については、アレンジャー、オリジネーターあるいは信託受託者のカウンセルとして、金銭債権を中心に多様なアセットクラスの証券化取引に関与した経験を有しており、国内初となったものも含む様々なスキームのストラクチャード・ファイナンス案件を手がけている。また、定型的な信託取引についてのアドバイスを行うだけでなく、新規信託商品の開発や、信託を用いた複雑なスキームの組成に関与した経験も多く有する。
さらに、金融分野での弁護士業務を通じて見識を得ていることに加えて、金融庁総務企画局企業開示課に所属し、金融規制の企画立案に携わった経験を有しているため、各種の金融規制にも精通しており、多くの銀行、信託銀行、証券会社、保険会社、ノンバンクその他の金融機関に対して金融規制についてのアドバイスを行っているほか、新類型の取引や商品と金融規制の適用に関するアドバイスを行うことも多い。
また、法制度や金融実務等に関する執筆、講演を多数行っており、各種の研究会、ワーキンググループ等に参加することも多く、金融法制に関するオピニオンリーダーの一人として認知されている。
【資格/登録】
第一東京弁護士会(2002年登録)
【学歴】
2001年 東京大学法学部第一類 (LL.B.) 経歴
【経歴】
2009年- 金融法委員会 委員
2010年-2011年 金融庁総務企画局企業開示課専門官
2013年- 京都大学法科大学院 非常勤講師
2013年- 日本証券業協会「JSDAキャピタルマーケットフォーラム」 専門委員
2013年-2014年 日本証券業協会「非上場株式の取引制度等に関するワーキング・グループ」 委員
2014年-2016年 新生債権回収&コンサルティング株式会社 取締役
2018年- 武蔵野大学大学院法学研究科 特任教授
2018年-2019年 日本証券業協会「株主コミュニティ制度に関する懇談会」 委員
2020年- 日本証券業協会「事故確認委員会」 委員
2020年- 金融庁金融審議会 市場制度ワーキング・グループ メンバー
2020年-2021年 日本証券業協会「非上場株式の発行・流通市場の活性化に関する検討懇談会」 委員
2021年-2022年 一橋大学大学院法学研究科 非常勤講師
2021年- 東京証券取引所「SPAC制度の在り方等に関する研究会」 メンバー
2021年- 金融法学会 理事
2022年 内閣府「イノベーション・エコシステム専門調査会」 委員
【主な論文/書籍】
『資産・債権の流動化・証券化〔第4版〕』(金融財政事情研究会、2022年)
『実務問答金商法』(商事法務、2022年)
『新たな信託ソリューションと法務』(金融財政事情研究会、2022年)
『Q&A金融サービス仲介業』(金融財政事情研究会、2021年)
『金融機関コンプライアンス50講』(金融財政事情研究会、2021年)
『実務解説 改正会社法<第2版>』(弘文堂、2021年)
『証券化ハンドブック』(流動化・証券化協議会、2020年)
『デジタルエコノミーと課税のフロンティア』(有斐閣、2020年)
『リース法務ハンドブック』(金融財政事情研究会、2020年)
『個人情報保護法制大全』(商事法務、2020年)
『債権法実務相談』(商事法務、2020年)
『金融資本市場と公共政策 - 進化するテクノロジーとガバナンス』(金融財政事情研究会、2020年)
「自己信託と債権譲渡の競合に関する一考察」『民法と金融法の新時代』(慶應義塾大学出版会、 2020年)
『金融資本市場のフロンティア - 東京大学で学ぶFinTech、金融規制、資本市場』(中央経済社、 2019年)
『SECURITIZATIONS: Legal and Regulatory Issues』(Law Journal Press、2019年)
『社債ハンドブック』(商事法務、2018年)
『詳解 民事信託 実務家のための留意点とガイドライン』(日本加除出版、2018年)
『金融とITの政策学 - 東京大学で学ぶFinTech・社会・未来』(金融財政事情研究会、2018年)
『新株予約権ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018年)
『ファイナンス法大全(下)[全訂版]』(商事法務、2017年)
『資金調達ハンドブック〔第2版〕』(商事法務、2017年)
『種類株式ハンドブック』(商事法務、2017年)
『ファイナンス法大全(上)[全訂版]』(商事法務、2017年)
『ここが変わった!民法改正の要点がわかる本』(翔泳社、2017年)
『FinTechビジネスと法25講 - 黎明期の今とこれから -』(商事法務、2016年)
【受賞歴】
2022年2月 Chambers Global 2022: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2021年12月 Chambers Asia-Pacific 2022: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2021年12月 Chambers FinTech 2022: FinTech Legal in Japan
2021年9月 IFLR1000 2021-22: Capital markets: Structured finance and securitisation
2021年8月 The A-List: Japan’s Top 100 Lawyers 2021
2021年2月 Chambers Global 2021: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2020年12月 Chambers Asia-Pacific 2021: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2020年12月 Chambers FinTech 2021: FinTech Legal in Japan
2020年9月 IFLR1000 2021: Capital markets: Structured finance and securitisation
2020年4月 Best Lawyers - 2021 edition: Corporate Governance & Compliance
2020年1月 Chambers FinTech 2020: FinTech Legal in Japan
2019年12月 Chambers Asia-Pacific 2020: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2017年12月 日本経済新聞社「2017年に活躍した弁護士ランキング」
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連載代金支払いルールが厳格に! 親事業者のための「民法改正」対策講座
Tranzax株式会社
代表取締役社長
一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。
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連載代金支払いルールが厳格に! 親事業者のための「民法改正」対策講座