2017年5月、企業や消費者の契約ルールを定める債権関係規定(債権法)を見直した改正民法が成立した。本連載では、債権法の改正が企業活動にどのような影響をもたらすのか、西村あさひ法律事務所の有吉尚哉弁護士とTranzax株式会社小倉隆志社長にお話を伺っていく。第5回のテーマは、中小企業の資金繰りを支援する「サプライチェーンファイナンス」の概要である。

「サプライチェーンファイナンス」の強みとは?

――電子記録債権を利用することで、二重支払いのリスクは防げることは理解できました。そのほかの利点はありますか?

 

Tranzax代表取締役社長
小倉隆志 氏
Tranzax代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 現在、電子記録債権が利用されているのは、全銀協の「でんさいネット」、メガバンクさんが大企業向けに提供している一括ファクタリングサービスと、当社の「サプライチェーン・ファイナンス」です。地銀さんも取引先に一括ファクタリングサービスを提供していますが、まだまだ電子記録債権化は進んでいません。取引先に対して、一定のシステム投資を要求するかたちになっているからです。

 

ただし、当社のサプライチェーンファイナンスはシステム投資がほぼかかりません。メガバンクさんや地銀さんと異なり、当社そのものがIT企業であり、電子記録債権を導入するためのシステムをクラウド化できれいるからです。

 

――メガバンクが提供している一括ファクタリングとの違いは?

 

小倉 サービスの仕組みはほぼ一緒です。サプライヤーが製品を発注企業に納品し、検収を終えた段階で売掛債権が確定して、電子記録債権化します。一括ファクタリングでは、その債権を銀行が買い取ることで、サプライヤーの早期資金化を行います。

 

一般に、銀行が提供している一括ファクタリングでは、金融機関が融資の際の貸出し金利の指標となる短期プライムレート1.475%(2018年1月現在)が採用されています。サプライヤーが一括ファクタリングで売掛債権を銀行に買い取ってもらう場合には、1.475%の金利を差し引いた額が支払われるのです。

 

一方、サプライチェーン・ファイナンスでは、その債権の買い取りをTranzaxが運営するSPC(特定目的会社)が行います。債権の買い取り資金は発注企業の信用力を活用して、低利で調達した資金を利用します。一律に短期プライムレートで割り引くわけではなく、個別に設定します。この割引レートは、調達コスト+運営コスト+利益率で決まります。当社は銀行と比較して調達コストは上がりますが、運営コストと利益率を低く抑えることができるので、トータルとしてみると低利となります。

 

当社のサプライチェーン・ファイナンスでは、ローコスト・オペレーションにより、早期資金化支援を行うため、サプライヤーのコスト負担を低く抑えることが可能なのです。

 

事務&資金コストのスリム化が可能に

――実際には、どれぐらいのコスト負担に?

 

小倉 導入企業によってまちまちですが、1.0~1.2%程度に収めるケースが大半です。それぐらい低利で資金調達の仕組みを提供できるようになるため、導入企業(発注企業)がサプライヤーとの関係を強化する効果も期待できます。

 

さらに、多数のサプライヤーへの支払い事務をTranzaxが代行することになるので事務コストや支払手数料の削減にも繋がります。導入企業は、サプライヤーの売掛債権が確定した段階で、その債権情報をTranzaxに送るだけです。

 

当社はそれを電子記録債権化して、その旨を発注企業とサプライヤーに通知。サプライヤーが早期資金化を希望する際には、自動的にSPCが債権を買い取って、早期支払いを行います。

 

取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2017年11月20日に収録したものです。

企業のためのフィンテック入門

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小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

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