(※写真はイメージです/PIXTA)
「私が海外駐在になったら、会社を辞めてついてきてくれる?」
「私のキャリアのこと、何も考えていないんだね」
そう言われたケンジさんは、思わず反論したといいます。
「そんなことはないよ。今までだって仕事のことは応援してきたじゃないか」
確かに、ケンジさんは妻の仕事に理解があるつもりでした。リサさんが昇進したときには一緒にお祝いをしましたし、仕事で帰宅が遅くなっても不満を言ったことはありません。しかし、リサさんはこう続けました。
「じゃあ、私が転勤になったらどうする? 例えば、海外駐在を命じられたら、あなたは今の会社を辞めてついてきてくれる?」
ケンジさんは、答えに詰まりました。
「自分が仕事を辞めて妻についていくなんて、考えたこともありませんでした。今の会社で積み上げてきたものがありますし、管理職になるタイミングで退職するなんて、現実的ではないと思ったんです」
その沈黙を見て、リサさんは言いました。
「そういうことだよ。あなたが辞められないと思う仕事を、どうして私は簡単に辞められると思うの?」
さらに、リサさんがショックを受けたのは、転勤そのものではなかったといいます。
「あなたが福岡で仕事を頑張りたいのはわかるし、応援したいと思っているよ。でも、どうして私がついていくことを当然だと思ったの? 一度も相談されていないよね」
ケンジさんは、転勤について妻に報告はしました。しかし、妻がどうしたいのか、仕事をどう考えているのかを尋ねることはありませんでした。
「自分の転勤はキャリアアップだから当然受け入れるべきものだと思っていたのに、妻の仕事については、引っ越しに合わせて何とかなるだろうと考えていたんです。逆の立場だったら、自分は絶対にそんなふうには思わないのに」
転勤をきっかけに退職する配偶者も
労働政策研究・研修機構「転勤に関する個人web調査」(2017年公表)によると、直近の国内転勤時に既婚で、配偶者が働いていた人のうち、転勤に際して配偶者がそれまでの会社を辞めた割合は24.1%でした。男性が家族を帯同して国内転勤したケースでは、働いていた妻の39.0%が会社を辞めています。
ケンジさん夫妻の場合、リサさんが退職すれば世帯年収は約1,400万円から750万円に減少します。仮に福岡で再就職できたとしても、現在と同じ年収や役職が保証されるわけではありません。もちろん、単身赴任にも経済的な負担はあります。福岡での住居費や光熱費、東京への往復交通費など、二重生活に伴う支出が増えるからです。しかし、ケンジさんが見落としていたのは、妻が仕事を辞めることで失われるものが、目先の収入だけではないということでした。
「妻は今の会社で頑張って、ようやく管理職になったんですよね。そのことは知っていたのに、自分の転勤が決まった途端、妻のキャリアを中断させることを簡単に考えていました」
共働きが当たり前になっても、転勤制度は変わらない?
その後、ケンジさんは妻と改めて話し合い、単身赴任することを決めました。勤務先に確認したところ、単身赴任手当や社宅制度を利用できることがわかりました。東京のマンションにはリサさんが住み続け、ケンジさんは福岡で暮らす予定です。
「もちろん寂しさはあります。でも、自分が福岡で働きたいと思うのと同じように、妻にも東京で続けたい仕事がある。それを最初から選択肢に入れていなかったことが問題だったと思います」
内閣府「令和8年版男女共同参画白書」によると、2025年の雇用者の共働き世帯(妻64歳以下)は1,254万世帯。一方、男性雇用者と無業の妻から成る世帯は358万世帯でした。
夫婦ともに働くことが一般的になるなか、一方の転勤にもう一方が同行することは、仕事の継続や収入の面で大きな問題となります。
転勤は本人にとって昇進やキャリアアップの機会となる一方、配偶者にとっては退職や転職を迫られるきっかけにもなり得ます。単身赴任を選べば、二重生活に伴う経済的な負担も生じます。こうした問題を、夫婦の話し合いや一方の犠牲だけで解決することには限界があるでしょう。共働きが一般化した現在、配偶者の同行を前提とした働き方や転勤制度そのものを見直すことも求められているのではないでしょうか。
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