(※写真はイメージです/PIXTA)
「何不自由ない暮らしをさせてやってきたのに」
キヨミさんは夫に、何かしてほしいことがあれば言葉で伝えてほしいと頼みました。しかし、夫の返事は「そんなこと、長年一緒にいるんだからわかるだろ」というものでした。
「わかるよ。でも、どうして私が毎回察してあげなきゃいけないの?」
それからキヨミさんは、夫が単語だけで要求を伝えてきても、すぐには動かないようにしました。すると、ある日、夫から「お前、最近冷たくなったな」と言われました。
「冷たくなったんじゃないよ。自分のことは自分でやってほしいだけ」
夫は不満をあらわにしました。
「今まで何不自由ない暮らしをさせてやってきたのに、何様のつもりなんだ?」
キヨミさんは、その言葉に驚いたといいます。
「夫が仕事を頑張ってくれたことには感謝しています。でも、私だって子育てをして、家事をして、パートにも出ていたんです。夫が仕事に専念できたのは、私が家のことを引き受けていたからでしょう」
現在の夫婦の年金収入27万円のうち、約19万円は夫の年金です。しかし、キヨミさんは自分が家庭で担ってきた仕事にも、価値があったはずだと感じています。
「夫の言い方だと、私は何もせずに養ってもらってきたみたいで。私がしてきたことは何だったんでしょうね」
そして、夫にはっきりと伝えました。
「この先ずっと、あなたのケアをしていくつもりはないからね。今は2人とも元気なんだから、対等に暮らしたい。それが嫌なら、私は離婚でもいいと思っているよ」
夫は黙ってしまいました。それ以来、キヨミさんとはほとんど口をきいていないそうです。
「これも同じことなんだなと思いました。夫は黙ることで、自分が怒っていることを私に察してほしいんでしょうね。私のほうから機嫌を取ってほしいんだと思います」
夫が実際に何を考えているのかはわかりません。ただ、キヨミさんはもう、その理由を探ろうとは思わないそうです。
「話したいことがあるなら、自分から話せばいいんです。私はもう、夫の沈黙の意味まで考えたくありません」
夫がこのまま態度を変えないのであれば、離婚しても構わないと考えています。
「察すること」も、家庭内の見えない負担
国立社会保障・人口問題研究所が2018年に実施した「第6回全国家庭動向調査」では、料理や掃除といった作業だけでなく、普段は家事として認識されにくい「見えない家事」の分担についても調べています。妻が60歳未満の世帯について集計した結果、「食材や日用品の在庫の把握」は88.6%、「食事の献立を考える」は91.6%の世帯で妻が担当。「家族の予定を調整する」についても63.1%が妻の役割でした。家事には、実際に手を動かす作業だけでなく、何が必要かを判断し、家族の行動に合わせて準備するといった、目に見えにくい負担もあります。
キヨミさんが長年担ってきたのは、夫の言葉や態度から要求を読み取り、不機嫌にならないよう気を配ることでした。相手の感情を読み取り、自分の反応を調整するという意味では、「感情労働」に通じる側面もあります。
一方、厚生労働省「人口動態統計」によると、2024年に同居期間20年以上で離婚した夫婦は4万686組。1985年の2万434組から約2倍になっています。もちろん、離婚に至る事情は夫婦によって異なりますが、長年の結婚生活で積み重なった不満が、老後になって表面化することもあるでしょう。
経済的に家族を支えてきたことと、家族から無条件に世話をしてもらえることは別の問題です。「言わなくてもわかるはず」という期待が、どちらか一方の負担になっていないか。長年連れ添った夫婦だからこそ、見直す必要があるのかもしれません。
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