長年連れ添った夫婦だからこそ、言葉にしなくてもわかることがあります。しかし、「わかって当然」という思い込みが、どちらか一方の負担になっていることも。年金月27万円、預貯金2,400万円と経済的には比較的余裕のある生活を送る69歳の女性。帰省した娘と夫の何気ないやりとりをきっかけに、長年感じていた疲れの正体に気づき、離婚を考え始めたといいます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
「察する」のに疲れました…〈年金月27万円〉72歳夫の「言わなくてもわかるだろ」に限界。69歳妻が熟年離婚を考え始めたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「年金月27万円」経済的には不自由のない老後生活

神奈川県内で暮らすキヨミさん(69歳・仮名)は、夫(72歳)と2人暮らしです。夫は大手メーカーを65歳で退職。キヨミさんも子育てが一段落してからはパートで働いていましたが、67歳で仕事を辞めました。現在の年金収入は夫婦合わせて月約27万円。住宅ローンは完済しており、預貯金も約2,400万円あります。

 

日本年金機構によると、2026年度の標準的な夫婦の年金額は月23万7,279円。キヨミさん夫妻の年金収入はこれを上回っており、経済的な不安はそれほどないといいます。

 

「夫は真面目に働いてきた人です。浪費もしないし、老後は2人でのんびり暮らせると思っていました」

 

ところが、夫婦で過ごす時間が増えるにつれ、キヨミさんは理由のわからない疲れを感じるようになりました。

 

「大きな喧嘩をするわけでもないのに、夫と一緒にいると疲れるんです。夫が外出するとホッとする自分がいて。なぜなのか、自分でもわかりませんでした」

「お醤油が何?」娘の一言に驚いた

そんなある日、都内で暮らす42歳の長女が、久しぶりに帰省しました。3人で昼食を食べていたときのことです。夫が、いつものように一言だけ口にしました。

 

「醤油!」

 

キヨミさんが反射的に立ち上がろうとすると、娘が先に口を開きました。

 

「お醤油が何?」

 

「だから、醤油」

 

「醤油をどうしてほしいの? 持ってきてほしいなら、そう言えばいいじゃない」

 

結局、キヨミさんが醤油を持ってきました。食事が終わり、夫が醤油差しを置いたまま立ち上がろうとすると、娘は再び声をかけました。

 

「お父さん、醤油くらい自分で台所に戻してよ。少しは動きなよ。フレイルになるよ」

 

夫は渋々、醤油差しを台所へ持っていきました。

 

「娘は別に怒っているわけでもなく、ごく普通に言っていたんです。私はそれを見て、夫にそんなふうに言っていいんだって驚きました」

 

キヨミさんにとって、夫の「醤油」は、醤油を持ってきてほしいという意味。長年の習慣で、聞き返すことなど考えたこともありませんでした。

夫の言葉の続きを、いつも考えていた

娘が帰ったあと、キヨミさんは夫との日常を振り返りました。「お茶」と言えば、お茶を入れてほしいという意味。「新聞」と言えば、新聞を取ってほしいという意味。「寒いな」と言われれば暖房をつけ、「腹減ったな」と言われれば食事の準備を始める。

 

「私、ずっと夫の言葉の続きを考えていたんだなと思ったんです。夫が何を望んでいるのか、無意識に考えて動いていたんですね」

 

思い当たることは家の中だけではありません。以前から、夫が外食先で店員に「領収書!」と一言だけ告げるのも気になっていました。

 

「領収書をお願いします、でしょう。私は隣でいつも嫌な気分になっていました。代わりに『すみません、領収書をお願いします』と言い直すこともあって」

 

夫の要求を察するだけでなく、相手に失礼にならないよう言葉を補い、夫が不機嫌にならないよう気を配る。そうした積み重ねが、自分の疲れにつながっていたのではないかと考えるようになりました。