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「ほかでも通用すると思っていた」
「長年会社に貢献してきた自負がありましたから、あの提示額を見たときは自分を全否定されたようなショックを受けたんです」
今春、都内の中堅メーカーで60歳の定年を迎えた隆さん。現役時代は営業部門の管理職として成果を上げ、最終的な年収は950万円に達していました。
定年を数ヵ月後に控えたある日、人事担当者から示された再雇用後の労働条件は、隆さんにとって受け入れがたいものでした。業務内容は現役時代のサポート業務に変わるものの、提示された年収は450万円。これまでより実に500万円も下がる条件でした。
「いまより年収が500万円も下がるのに、やってられっか!」
隆さんは、会社からの引き止めを振り切り、再雇用の提示をきっぱりと拒否。長年の勤務で得た退職金2,200万円が口座に振り込まれたこともあり、「これまでの蓄えもあるし、ゆっくり次の仕事を探そう。これまでの実績があれば、もっと条件のいいところで再就職できる」と強い自信を持って会社を去りました。
しかし、退職した翌週から始めた再就職活動で、隆さんは即座に厳しい現実に突き当たります。
転職エージェントやハローワークを回っても、60歳以上の求人で提示される年収は250万〜300万円程度が主流で、現役時代の管理職経験を評価してくれる企業は皆無に等しい状態でした。書類選考すら通らない日々が続き、面接にこぎ着けても隆さんが提示する条件と、企業側の求める人材がマッチしなかったのか、お祈りメールばかりが届きます。
さらに、自宅で将来の収支を試算した妻から突きつけられた現実も隆さんを追い詰めました。65歳の年金支給開始までの5年間、無収入のまま退職金を取り崩せば、予定していた老後資金は一気に削られます。加えて、退職後に自身で支払う健康保険料や住民税の負担が思っていたよりも重いことも判明しました。
退職からわずか2週間後、自宅の書斎で頭を抱えていた隆さんは、ついに自尊心を脇に置き、携帯電話を手に取りました。相手は、退職時に「いつでも相談に乗りますから」と見送ってくれた元勤務先の人事部長でした。
「あ、部長……お忙しいところ恐縮です。恥を忍んでお電話したのですが……先日いただいた再雇用のあの話、まだ生きていますでしょうか?」
受話器越しに絞り出すように頭を下げた隆さん。現役時代のプライドと現実の狭間で味わった苦い経験は、定年後の生き方を改めて見直す痛烈なきっかけとなりました。