内閣府の「令和5年版男女共同参画白書」によると、6歳未満の子どもを持つ共働き夫婦では、家事関連時間の77.4%を妻が担っています。共働きが当たり前になっても、家庭内の負担は依然として女性に偏っているのが現状です。そんななか、定年退職を控えた60歳の男性が、妻から突然離婚を切り出されました。長年連れ添った妻から「もう誰かのケアをしたくない」と告げられた男性は、その言葉の意味を理解できずにいます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
香典袋の準備を頼んだだけなのに…〈世帯年収1,400万円・貯蓄4,500万円〉定年間近の60歳夫が妻から突然離婚を切り出されたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

定年後は妻と旅行でも、と考えていたのに

「まさか、この年齢になって離婚を切り出されるとは思いませんでした」

 

そう話すのは、都内のメーカーに勤務するタカノリさん(60歳・仮名)です。妻のマキコさん(58歳・仮名)とは結婚32年目。成人した一人娘はすでに独立し、現在は夫婦二人で暮らしています。

 

タカノリさんの年収は約800万円、妻は約600万円。夫婦ともに長年正社員として働き、世帯年収は約1,400万円になります。住宅ローンは数年前に完済。夫婦の貯蓄は合わせて約4,500万円あり、老後の経済的な不安はそれほどありません。

 

タカノリさんは来年、定年を迎える予定です。再雇用は選ばず、しばらく仕事から離れて妻との時間を楽しみたいと考えています。

 

ところが、マキコさんは退職後の旅行や生活について話しても、あまり乗り気ではありません。タカノリさんは、仕事で疲れているのだろうと考えていました。

「香典袋くらい、自分で用意してよ」

きっかけは、タカノリさんの親戚に不幸があったことでした。これまで冠婚葬祭の準備は、ほとんどマキコさんに任せてきました。親戚へのお祝い、法事の手配、年賀状の管理なども同様です。

 

その日も、いつものように香典袋の準備を頼んだところ、妻から思いがけない返事が返ってきました。

 

「香典袋くらい、自分で用意してよ」

 

タカノリさんは驚きました。書き方がよくわからないし、妻のほうが慣れている。そう説明すると、マキコさんは黙ってしまいました。

 

結局、香典袋はタカノリさんが自分で購入し、インターネットで書き方を調べて準備しました。それほど難しいことではなかったものの、なぜ妻が怒ったのか理解できなかったといいます。タカノリさんにとっては、たった一度の頼み事。しかし、マキコさんにとっては、32年間積み重なってきたことの一つでした。

妻もずっと働いてきたのに

マキコさんは結婚後も正社員として働き続け、出産後は育児休業を経て職場に復帰しました。現在は管理職として働き、残業する日も少なくありません。それでも、家事や育児、親戚付き合いなど、家庭に関するさまざまなことを担ってきたのは、マキコさんでした。

 

娘が小さいころは保育園の送迎や学校行事の調整、病院への付き添い。成長してからは受験や進学に関する情報収集、塾とのやり取りなども担当しました。

 

タカノリさんも、休日には掃除や娘の世話をするなど、家事や育児に協力してきたつもりです。ただ、家族の予定を把握し、何をいつ準備するかを考えるのは妻でした。それは、タカノリさん自身の親や親戚に関することでも同じでした。義父母の誕生日や父の日・母の日の贈り物、親戚の冠婚葬祭、帰省の日程調整などは、すべてマキコさんが把握していました。

 

タカノリさんは、妻から言われれば電話をかけたり、必要なものを購入したりしましたが、自分から動くことはほとんどありませんでした。親の体調を気にかけ、必要に応じて連絡するよう促すのもマキコさんの役目でした。一方、妻が仕事で忙しくしていても、タカノリさんが何かを先回りして準備することはありませんでした。妻は自分のことを自分でできる人だからです。

家事の負担は女性に偏る傾向

内閣府の「令和5年版男女共同参画白書」では、総務省「令和3年社会生活基本調査」をもとに、男女の生活時間の違いを分析しています。それによると、6歳未満の子どもを持つ共働き夫婦では、家事関連時間の77.4%を妻が担っていました。家事関連時間には、家事、育児、介護・看護、買い物が含まれます。同調査では、6歳未満の子どもがいる夫婦について、妻の家事時間は夫の約6倍、育児時間は約3.5倍となっています。

 

これらは子育て世帯を対象とした調査ですが、共働きでも家庭内の無償労働が女性に偏る傾向が確認できます。家事には、実際に手を動かす作業だけでなく、家族の予定を把握し、必要な準備を整える仕事もあります。タカノリさんは、そうしたことを負担として意識したことがありませんでした。