同じ質問を何度も繰り返す母に、つい苛立ちをぶつけてしまった――。認知症だとわかっていても、仕事や家庭の用事に追われるなかで、気持ちに余裕がなくなることがあります。ある親子の事例から、認知症介護の実態について考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「最低でした…」54歳娘、認知症の81歳母に思わず口にした「絶対に言ってはいけない」ひと言…母のノートに綴られた言葉に涙 ※写真はイメージです/PIXTA

母のノートに綴られていた言葉

後日、智子さんは実家で母のノートを目にしました。そこには、日々の予定や忘れたくないことが書き留められていました。

 

同じことを何度も尋ねてしまう和子さんにとって、ノートは予定を確認するための手がかりでした。智子さんは、母が自分なりに忘れないよう工夫していたことを改めて知ります。そして、ノートに残された言葉を読んだとき、母とのやり取りを思い返しました。

 

自分が口にした言葉は、母にどう受け止められたのだろう――

 

そう考えると、胸が痛み、涙が込み上げてきたそうです。

 

厚生労働省『2025(令和7)年国民生活基礎調査』によると、同居の主な介護者のうち、日常生活で「悩みやストレスがある」と答えた人の割合は63.7%(女性では67.9%)にのぼります。その原因としては「家族の病気や介護」(49.8%)が最も多く、「自由にできる時間がない」(12.7%)や「自分の仕事」(9.9%)などが挙げられています。家族を思う気持ちがあっても、仕事や生活との両立のなかで心身ともに余裕をなくし、追い詰められてしまう実態が浮かび上がります。

 

政府広報オンラインなどの公的資料でも、認知症は単なる物忘れとは異なり、記憶や判断力などの認知機能が低下することで、生活にさまざまな影響が生じる状態と説明されています。本人の行動だけを見て対応を決めるのではなく、病気によって何が難しくなっているのかを汲み取ることが重要です。

 

一方で、家族がいつも穏やかに接することは、決して簡単ではありません。もし強い言葉を口にしてしまったとしても、自分を責め続けるだけでは問題の解決につながりません。本人の症状について医療機関に相談したり、ケアマネジャーや地域包括支援センターに支援を仰ぐことも欠かせません。本人の状態を受け止めるとともに、介護する側も周囲の支援を受けながら、無理なく関わり続けられる方法を探していくことが大切です。