同じ質問を何度も繰り返す母に、つい苛立ちをぶつけてしまった――。認知症だとわかっていても、仕事や家庭の用事に追われるなかで、気持ちに余裕がなくなることがあります。ある親子の事例から、認知症介護の実態について考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「最低でした…」54歳娘、認知症の81歳母に思わず口にした「絶対に言ってはいけない」ひと言…母のノートに綴られた言葉に涙 ※写真はイメージです/PIXTA

「何回言えばわかるの!」 認知症の母に声を荒らげた54歳娘

「何回言えばわかるの!」

 

東京都内で会社員として働く小林智子さん(54歳・仮名)は、認知症を患う母・和子さん(81歳・仮名)に、思わず強い口調で言い放ってしまったことがあるといいます。

 

和子さんは数年前から物忘れが目立つようになり、医療機関で認知症と診断されました。日常生活において、自分でできることは残っていますが、直前に聞いた話を忘れたり、予定を何度も確認したりすることが増えていました。

 

智子さんは仕事を続けながら、母の通院の付き添いや買い物の手伝いをしています。実家に顔を出すたび、同じ質問を繰り返されることもありました。

 

ある日、和子さんが翌日の予定について尋ねました。

 

「明日は病院に行くんだったかしら」

 

智子さんは、すでに何度も説明していました。受診する時間も伝え、忘れないようにと念を押していたのです。それでも同じ質問をされたことで、つい「さっきも言ったでしょう! 」と声を荒らげてしまいました。

 

母を困らせようと思っていたわけではありません。むしろ、きちんと通院してほしいという心配がありました。しかし、仕事や家庭の用事に追われる日々のなかで、同じ説明を繰り返すことに疲れ、感情を抑えられなくなっていたのです。

 

和子さんは黙り込み、やがて「ごめんね」と口にしました。その様子を見て、智子さんは言い過ぎたのではないかと感じました。認知症の影響で忘れてしまうことは理解しているはずなのに、なぜ強い言葉をぶつけてしまったのか――。母を心配する気持ちと、思うようにいかない苛立ちの間で揺れていました。