(※写真はイメージです/PIXTA)
感謝の気持ちに対する「いらない」の返答
「40年間、お前のお陰で頑張ってこられた。お前がいなかったらここまでやってこられなかったよ。これ、お前に」
都内の大手メーカーを65歳で定年退職したタカフミさん(65歳)。口座には長年の勤務の対価として、2,500万円の退職金が振り込まれていました。
現役時代は猛烈社員として仕事一筋で過ごし、家庭の切り盛りはすべて専業主婦のアヤコさん(62歳)に委ねてきました。無事に定年を迎えられたのは妻の内助の功があってこそだと痛感していたタカフミさんは、退職日の帰り道、都内百貨店の高級ブランド店へ足を運びます。
タカフミさんが選んだのは、エレガントな革仕立ての長財布でした。値段は18万円。迷わずカードで決済しました。
花束とブランド店の紙袋を抱え、胸を張って帰宅したタカフミさん。リビングで夕食の準備をしていたアヤコさんに「いつもありがとう」と感謝の言葉を添えて紙袋を手渡しました。
ところが、アヤコさんは箱を受け取ると中身を一瞥しただけで、感謝の言葉どころか冷ややかな声で短く言い放ちました。
「いらない」
予想もしなかった返答に、タカフミさんは呆然と立ち尽くしました。「どうしてだ? 18万円もしたんだぞ。ずっと苦労をかけたから感謝のつもりで……」と言いかけるタカフミさんを遮り、アヤコさんは静かにテーブルの上に1通の書類を置きました。それは記入済みの「離婚届」でした。
「私はずっと、我慢していました。『お前』という呼び方、何度もやめてといいました。偉そうなのよ。この財布だってそう。私がどんなものが趣味かすら知ろうもしない。本当に感謝しているなら、私になにが欲しいか聞けばいいのに……。あなたはいつも自己満足なのよ。あなたが選んだものが欲しいんじゃない。あなたはいつもそう」
アヤコさんが抱えていたのは、現役時代から家事や育児の負担をすべて押し付けられ、退職後も妻の好みや意向すら確認せず勝手に選んだプレゼントを渡し、「感謝してやった」と満足気な夫のどこまでも無神経で自己中心的な姿勢に、長年蓄積していた感情が限界に達していたのです。
「退職金の半分と今後の年金分割はしっかり請求させてもらいます。明日、家を出ますので」
そう告げると、アヤコさんは荷物がまとめられた旅行鞄を持ち、寝室へと消えていきました。
残されたのは、テーブルの上に放置された18万円の高級財布と離婚届。妻への感謝のつもりが、長年の独善的な振る舞いと夫婦の致命的な亀裂を浮き彫りにし、老後生活の崩壊を招く結果となった現実に、タカフミさんはただ戦慄するしかありませんでした。