(※写真はイメージです/PIXTA)

離れて暮らす子どもや孫との交流は、高齢期の楽しみのひとつです。定年退職後、家族と過ごす時間が増えた人もいるでしょう。しかし、親世代が気軽に訪ねているつもりでも、迎える側には家事や予定の調整が必要になることがあります。互いに遠慮して本音を伝えられないまま、小さな負担が積み重なってしまうケースもあるようです。 ※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。

「来てほしくないわけじゃない」息子夫婦が言えなかった事情

翌日、和夫さんは長男に電話をかけました。

 

「昨日、あの子から聞いたんだけど……。俺が毎週行くのは、負担になっているのか?」

 

長男は少し黙った後、「ごめん。ちゃんと話しておけばよかった」と答えました。

 

長男夫婦は共働きです。平日は帰宅が遅く、掃除やまとめ買い、子どもの習い事などを週末に済ませています。

 

和夫さんが訪ねる日は、長男の妻が午前中から家を片づけ、お茶菓子や夕食を用意していたそうです。

 

「父さんが来るのはうれしいんだよ。ただ、毎週だと妻が休めなくて。俺も準備を任せきりにしていた」

 

長男の妻は、和夫さんを嫌っているわけではありませんでした。ただ、訪問が続くうちに、家族だけで過ごす時間もほしいと感じるようになっていたのです。

 

和夫さんは、自分が持参する菓子や果物で十分に気を遣っているつもりでした。

 

「夕飯も、いつも『食べていってください』と言ってくれるから、甘えてしまった。あれは準備が大変だったんだな」

 

長男は「妻も、父さんに直接言ったら傷つけると思っていたんだ」と説明しました。

 

内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、子との同居・近居を希望する人に、そのメリットを尋ねています。「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」と答えた人は88.7%、「子や孫の世話ができる」は27.0%でした。

 

子ども世帯との距離が近い暮らしには、安心感や交流の機会がある一方、実際の付き合い方はそれぞれの生活事情に合わせて考える必要があります。

 

電話を終えた和夫さんは、これまでの訪問を振り返りました。

 

長男の妻が台所に立っている間、自分は孫と遊び、夕食ができるのを待っていました。食後も長居することがありました。

 

「家族なんだから、気を遣わなくていいと思っていたんです。でも、向こうはそうはいかなかったんですね」

 

それから和夫さんは、毎週の訪問をやめました。

 

孫に会いたいときは、まず長男に予定を確認します。最近は月に1回ほど、近くの公園で孫と遊び、昼食を一緒に取るようになりました。

 

「今度はおじいちゃんが弁当を買っていくよ」

 

そう伝えると、孫は「じゃあ、から揚げのお弁当がいい!」とうれしそうに答えたそうです。

 

和夫さん自身も、地域の囲碁サークルに参加し始めました。息子一家を訪ねない週末にも、楽しみができつつあります。

 

「孫には会いたいですよ。でも、息子たちにも自分たちの暮らしがありますからね。これからは、お互い気持ちよく会えるようにしたいです」

 

親子であっても、訪問の頻度や滞在時間について希望が一致するとは限りません。負担を感じても、相手を傷つけたくないという思いから言い出せないこともあるでしょう。家族との交流を長く続けるためには、迎える側の予定や準備にも目を向け、無理のない付き合い方を話し合うことが大切です。

 

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