(※写真はイメージです/PIXTA)

定年退職を迎えると、仕事中心だった生活が大きく変わります。これまで忙しく働いてきた人のなかには、退職後は夫婦で旅行や外食を楽しみたいと考える人もいるでしょう。しかし、長年それぞれの生活を送ってきた夫婦が、急に一緒に過ごす時間を増やすのは簡単ではありません。退職をきっかけに、家庭内での役割や時間の使い方を見直すことになる場合もあるようです。 ※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。

「私にも私の生活があるの」妻の言葉で気づいたすれ違い

退職から2ヵ月ほどたったころ、隆夫さんは美佐子さんに不満をぶつけました。

 

「せっかく退職したんだから、もう少し一緒に過ごしてもいいんじゃないか?」

 

すると美佐子さんは、少し困った表情で答えました。

 

「一緒に出かけるのはいいけど、私にも私の生活があるのよ」

 

美佐子さんは、夫が仕事に出ている間、パート勤務や趣味、友人との交流を通じて自分の生活を築いてきました。

 

「あなたが会社に行っていた38年間、私も家のことをしながら、自分の予定を作ってきたの。それを急に全部変えるのは難しいわ」

 

さらに美佐子さんは、昼食についても話しました。

 

「毎日お昼を用意するのは大変だから、自分で食べるものは自分で考えてほしいの」

 

隆夫さんは、そこで初めて妻の負担に気づいたといいます。

 

内閣府『令和2年版男女共同参画白書』によると、仕事をしている人の「仕事のある日」の家事時間は、単独世帯では男女差がほとんどない一方、夫婦で暮らす世帯では女性が男性の2倍以上となっています。仕事のない日にも同様の傾向がみられます。

 

隆夫さんも会社員時代、家事のほとんどを妻に任せていました。

 

「妻が毎日何をしているか、考えたこともありませんでした。自分が家にいるようになれば、妻も一緒にのんびり過ごすものだと思っていたんです」

 

美佐子さんの話を聞いてから、隆夫さんは少しずつ自分の生活を見直し始めました。

 

まず取り組んだのは、昼食の準備です。最初は冷凍食品を温める程度でしたが、最近は簡単な炒め物やパスタを作るようになりました。

 

「自分で作ってみると、買い物から片付けまで結構時間がかかるんですよね」

 

また退職前の同僚に連絡を取り、月に一度、一緒にゴルフへ行くことにしました。近所のスポーツセンターにも通い始めています。

 

「妻が出かける日に、自分も何か予定を入れるようになったら、平日が退屈じゃなくなりました」

 

夫婦で過ごす時間も、少しずつ増えてきました。先日は美佐子さんの提案で、以前から気になっていたレストランへランチに出かけたそうです。

 

「久しぶりに2人で外食したら、妻が楽しそうにしていて。私も素直に楽しかったです」

 

隆夫さんは、退職金2,800万円があることもあり、当初は旅行や外食にお金を使うことばかり考えていました。しかし今は、退職後の時間をどう過ごすかにも目を向けています。

 

「妻と毎日一緒にいるのが理想だと思っていました。でも、今はそれぞれの予定があって、ときどき一緒に出かけるくらいがちょうどいいのかもしれません」

 

今後は65歳から受け取る予定の年金見込額も確認し、夫婦で家計や旅行の計画を話し合っていくつもりです。

 

定年退職によって夫の在宅時間が増えても、妻がそれまで続けてきた生活や交友関係は変わらずにあります。退職後の暮らしを考える際には、家計の見通しだけでなく、家事の分担や互いの予定、夫婦で過ごしたい時間についても、早い段階から話し合っておくことが大切でしょう。

 

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