「もっと会えると思っていた」娘に言えなかった本音
今年の秋も、節子さんに運動会への誘いはありませんでした。真由さんからは後日、孫が走っている動画が送られてきました。
「今年も頑張ったよ。今度会ったときに話を聞いてあげてね」
節子さんは動画を何度も見返しましたが、どこか寂しさが残ったといいます。
「孫の運動会、今年も呼ばれませんでした。せっかく近くに住んでいるのに、画面で見るだけなんだなって」
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、子どもがいる65歳以上の人のうち、「同居ではなく近居したい」と回答した人は32.8%でした。
また、同居や近居を希望する人にメリットを尋ねたところ、「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」が88.7%、「子や孫の世話ができる」が27.0%となっています。
節子さんも、近くに住めば娘一家の役に立てると思っていました。
ところが真由さんは子どもの送迎や家事を夫婦で分担しており、母親に頼る機会はほとんどありません。
「困ったら声をかけてね」と伝えても、「ありがとう。でも今のところ大丈夫」と返ってくるばかりでした。
さらに節子さんには、気がかりなことがありました。
引っ越し前は、近所に長年の友人が何人もいました。週に一度は友人とお茶を飲み、地域の集まりにも参加していたのです。
しかし、新居の周辺には知り合いがほとんどいません。娘一家と過ごす時間が増えると思っていたため、引っ越してからしばらくは、新しい交友関係をつくろうともしていなかったそうです。
「前の街にいたころのほうが、人と話す機会は多かったかもしれません」
ある日、節子さんは思い切って真由さんに気持ちを伝えました。
「近くに引っ越したら、もっとみんなに会えると思っていたの。運動会も、少し楽しみにしていたんだけどね」
真由さんは驚いた様子でした。
「そんなふうに思っていたんだ。お母さんは新しい街で、自分の時間を楽しんでいると思ってた」
真由さんにとって、母親の住み替えは、買い物や通院が便利になり、何かあればすぐ駆けつけられるようにするためのものでした。
「近くにいてくれるのは安心だけど、毎週会うことまでは考えていなかった。ちゃんと話しておけばよかったね」
娘の言葉を聞き、節子さんも自分の期待を伝えていなかったことに気づいたそうです。
その後、親子は月に一度、一緒に昼食を取ることにしました。孫たちの予定が合わないときは、真由さんと2人で会うこともあります。
また、節子さんは近所の公民館で開かれている書道教室に通い始めました。
「まだ知り合いは少ないけれど、少しずつ話せる人ができてきました」
運動会に呼ばれなかった寂しさが、すっかり消えたわけではありません。それでも節子さんは、娘一家の予定を待つだけだった生活を少しずつ変えようとしています。
高齢期に子どもの近くへ住み替える場合、親子で期待する交流の頻度や関わり方が異なることもあります。移住前に希望を話し合うとともに、新しい土地での交友関係や日々の過ごし方も考えておくことが大切でしょう。
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