「お米も野菜もあるから」母が語った食費月2万円の暮らし
80歳の文子さん(仮名)は、地方都市の一戸建てで一人暮らしをしています。
夫は亡くなり、現在の年金収入は自身の老齢年金と遺族厚生年金を合わせて月約12万円。住宅ローンのない持ち家で、慎ましく生活しています。
55歳の長男・浩一さん(仮名)は、車で約1時間の場所に妻と暮らしています。実家を訪れるのは2〜3ヵ月に一度ほどですが、毎週電話で母の様子を確認していました。
「最近、食べ物が高いけど、生活は大丈夫?」
ある日、浩一さんが尋ねると、文子さんは明るい声で答えました。
「食費は月2万円で足りてるよ。一人だし、そんなに買うものもないから」
浩一さんは少し驚きました。
「2万円? それでちゃんと食べられるの?」
「お米は叔父さんがくれるし、野菜は庭で作ってるでしょう。買うものなんて、そんなにないのよ」
文子さんの弟は、車で30分ほどの場所で米作りをしています。毎年秋になると、姉のために米を30kgほど分けてくれるのが習慣でした。
また、文子さんは自宅の庭に小さな家庭菜園を持っています。春から秋にかけてはトマトやキュウリ、ナスなどを育て、冬場も大根やネギを収穫。近所の人と野菜を交換することもあります。
もちろん、それだけで一年中すべての野菜を賄えるわけではありませんが、スーパーで買う量は少なく済んでいました。
「昔から畑仕事が好きだったし、体を動かすのにもいいからね」
そう聞いて、浩一さんもひとまず安心したといいます。
しかし翌月、実家を訪ねたとき、気になることがありました。
昼食を一緒に食べようと誘うと、文子さんは「私は朝ご飯が遅かったから、あなたは好きなものを食べて」と言うのです。
浩一さんが冷蔵庫を開けると、野菜室には畑で採れた大根や小松菜が入っていました。
一方、冷蔵室にあったのは豆腐と卵、漬物、調味料くらい。肉や魚、乳製品はほとんど見当たりません。冷凍庫には小分けにしたご飯が並んでいます。
「母さん、いつもおかずは何を食べてるの?」
「大根を煮たり、お味噌汁を作ったり。豆腐もあるし、十分よ」
詳しく聞くと、朝はご飯と漬物、昼は残り物やお茶漬け、夜は野菜の煮物と豆腐という日も珍しくないそうです。
以前は週に何度か魚を買っていたものの、最近は月に数回程度。肉も特売の日に少量買うくらいになっていました。
「魚も高くなったでしょう。一人分だけ焼くのも面倒だしね」
浩一さんは、母が月2万円で暮らせている理由をようやく理解しました。
「お米や野菜があるのはいいけど、それ以外のものを我慢しすぎじゃない?」
文子さんは「そんなことないわよ」と笑いましたが、目を合わせようとはしませんでした。
