「口約束」になってしまう要因
小さな会社では、社長や担当者の「昔からの付き合い」で外注先を決めているケースが多いですね。そうなると、「『契約書』とか、かしこまったものは必要ないよね? 今までどおりでやってよ」などと、メール1本で、あるいは口頭で伝えるだけになってしまいがちです。人手不足で事務スタッフが足りない、という会社もあるようです。
しかし、令和6年11月1日から施行された「フリーランス保護法」により、業務委託の内容を書面で明示することが義務付けられました。この明示義務に違反した場合、行政機関からの助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わないときは命令や事業者名の公表が行われ、それでも命令に従わない場合には罰則(50万円以下の罰金)が科されることもあります。また、本来は「労働者」として保護されるべき人を「業務委託」として扱っている場合のリスクについても知っておきたいものです。
フリーランスで働く人と安心・信頼の下で業務委託ができるように、体制を整えましょう。
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フリーランス保護法により、書面で明示義務あり
フリーランス保護法で「フリーランス」とは、企業等の発注事業者から業務委託を受けて仕事をする人で、従業員のいない人のことをいいます。
この法律により、フリーランスへ業務を委託するすべての発注事業者に、取引条件を書面またはメールなどの電磁的方法で明示する義務が課されました。従業員のいない発注事業者が委託する場合も、明示義務の対象になります。「今までどおりでお願い」という口頭だけの発注は、それ自体がこの義務を満たしていません。
契約時に明示する項目
・発注事業者とフリーランスそれぞれの名称
・業務委託をした日
・業務の内容(委託事項)
・役務の提供を受ける場所
・役務の提供を受ける期間(納期)
・検査を行う場合は、検査完了日
・報酬の額と支払期日
・現金以外で報酬を支払う場合は、その支払方法
報酬の支払期日の決め方
支払期日は、役務の提供を受けた日(納品日)から60日以内の、できる限り短い期間内で定めます。他社から受けた業務をフリーランスに再委託する場合は、元の委託の支払期日から30日以内で定めます。
明示義務のほかにもある、発注事業者の義務
フリーランス保護法が発注事業者に求めるのは、取引条件の明示だけではありません。従業員を使用する発注事業者には、次の義務と禁止行為が定められています。自社の委託期間に当てはまるものから確認してください。
※従業員のいない発注事業者は、この表の義務の対象外です(2章の明示義務のみ適用されます)。
※それぞれの詳しい要件は、公正取引委員会のパンフレット「ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法」で確認できます。
https://www.jftc.go.jp/file/flpamph.pdf
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フリーランス保護法に違反したとき
フリーランス保護法の管轄行政機関は、前記で示した「取引の適正化」については公正取引委員会と中小企業庁、「就業環境の整備」については厚生労働省です。フリーランスは、発注事業者から法令違反と思われる扱いを受けたときは、管轄行政機関にその旨を申し出ることができます。
行政機関は申出内容に応じて立ち入り検査等を行い、問題があるときは助言・指導・勧告が行われます。勧告に従わないときは命令や事業者の公表を行い、命令に従わない場合は50万円以下の罰金が科されます。
発注事業者は、フリーランスが行政機関に申し出たことを理由に、契約解除や取引停止など不利益な取扱いをしてはなりません。
実際に起こりやすいトラブル
業務委託契約において取引条件が曖昧なままだと、次のようなトラブルに発展しやすくなります。ここでは、中小企業の現場でよく見られる3つのトラブル類型を取り上げます。
①報酬額のトラブル
追加の作業や修正が発生した場合に報酬が上乗せされるか否か、発注者とフリーランスの間で認識が分かれることがあります。「取引条件の明示」で明らかにしておきましょう。
継続して委託している場合は、報酬が長年にわたり据え置かれていると、「買いたたき」とみなされることがあります。実際に、公正取引委員会は令和8年6月24日、コスト上昇分について十分な協議を行わずに報酬を据え置いていた事業者に対し、フリーランス法の「買いたたき」にあたるとして勧告を行っています。
②業務範囲の認識違い
長い付き合いになると、発注事業者側につい甘えが出て「ついでに、ここもお願いね」と言ってしまうこともあるようです。
これについても、書面で明らかにして、フリーランスに無理を強いることのないようにしましょう。
③納期トラブル
納期も書面で明示する事項の一つですが、天候などの影響により納期が延びた際の取扱いについても定めておいたほうがよいでしょう。
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本来は「労働者」として保護されるべき人
フリーランスとして業務委託という形で仕事を依頼している人のなかに、本来は「労働者」として保護されるべきケースが散見されます。次のような形で仕事を依頼している場合は「労働者性」が指摘され、さかのぼって未払残業代の支払いや労働保険、社会保険の加入及び保険料の支払い義務が発生することになります。
①事業者の指揮監督下での仕事
業務遂行に関し具体的な指示がある、仕事の依頼を断る自由がない、勤務時間や勤務場所の拘束がある、他人に仕事を代わってもらえない
②「賃金」の支払い形態
業務の成果ではなく時間や日数などで報酬額が決まる
③その他
機械・器具は事業者で提供したものを使用する、他社の仕事を自由に受けられず専属を求められる
労働者性が指摘されたとき
業務委託ではなく労働者であるとされた場合は、次のようなリスクが生じます。
①未払い賃金の支払い
労働者であれば最低賃金法が適用されるので、時給換算して最低賃金を下回る場合は不足分を支払う必要があります。なお、業務委託の場合は最低賃金法は適用されませんが、業務に対して不当に低い報酬であるときは「買いたたき」を指摘される可能性があります。
未払いの時間外労働手当(残業代)などの支払いも発生することがあります。時効は当分の間3年ですが、法律上は5年です。
②雇用保険・社会保険の遡及適用
原則として最大2年間さかのぼって適用され、保険料の支払い義務が発生します。ただし雇用保険については、保険料が控除されていたことが給与明細等で確認できる場合、2年を超えて遡及適用される特例があります。
③解雇制限の適用
業務委託の契約終了が「解雇」とみなされることがあります。解雇すべき事由があるときは30日前までに予告、または30日分の解雇予告手当の支払いが必要になります。
服部 明美
社会保険労務士
社労士はっとりコンサルティングオフィス代表
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