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「お金を増やしながら万が一に備えられる」という甘い言葉
後日、個別相談のために同じホテルのラウンジに現れたのは、黒いスーツを着た30代風の男。「講師から引き継いでご相談に乗ります」と差し出された名刺には、保険代理店の名前があります。
「保険の営業の方がFPをやっているんですね」とTさんは少し戸惑いました。(質問したかったのは保険営業マンではなく、FPだったのだが……。でも、医療保険の見直しもしたかったし、ちょうどいいか)と思いなおします。
「医療保険を見直したくて来たんです」と切り出すと、この保険営業マンからはあっさりとした返答が。「医療保険は必要ありませんよ。高額療養費制度がありますから。医療保険なんて入るのは無知な人だけです。それより、Tさんが考えるべきは老後資金のほうです」。
この保険営業マンの自信満々な口調と、少し押し付けがましい圧のある態度に違和感がありました。なにかで決まっている段取りなのか営業マンは「ライフプランニング」と称してTさんの人生計画を聞こうとします。Tさんはいろいろ質問に答えますが、営業マンは別にその話に興味もない様子。なんのためにそんな話をしているのかわからなくなったころ、男性が差し出してきたのが「有期型の変額保険」の設計書でした。
「銀行に預けていてもお金は増えません。この保険なら、プロが国内外の株式などで運用してくれるので、インフレ対策にもなります。もしものときの死亡保障もしっかりついていますよ」
月々の保険料は10万円、死亡保障は2,000万円。満期を迎えるのは85歳です。「えっ、高い保険ですね。年金が18万円なのに、月10万円は無理ですよ」とTさんがいうと、担当者はその言葉を待っていたとばかりに畳みかけます。
「年金から払うとお考えになるから、高く感じるんです。退職金の置き場所を、銀行から保険へ少しずつ変えるだけですよ。お金がなくなるわけではありません。置いてある場所が変わるだけです」
「定期預金や個人向け国債が安全だと聞いているのですが、その運用ではダメなんですか」とTさん。この保険営業マンは圧力的な口調で答えます。「ダメです。インフレ率を超えるような運用をしないと意味がないです」。
Tさんが本当に興味を持っている医療保険の話は否定され、掛け金が高いという意見も否定され、次第に雰囲気は、この保険に入らないような人は無知の弱者とでもいわんばかりに。「わかりました、前向きに検討します」そういってその場は帰りました。
家に帰って設計書の内容を妻のKさんに説明すると、「年金が18万円なのに、毎月10万円も払っていけるの」と眉をひそめました。「これは掛け捨てるんじゃない。置き場所を変えるだけだ。お金を増やしながら保障も得られるなら一石二鳥だ」と、Tさんはなぜか妻を説得。
その2日後。Tさんはあの男性営業マンに会い、変額保険の申し込みをしました。