年齢とともにケガや病気のリスクは高まります。リタイア生活がはじまり医療費や生活費が不安なとき、手厚い保障や資産運用を謳う保険を勧められると、つい加入したくなるものです。しかし、保険のなかには「60代からの加入にはまったく向かないもの」もあります。長岡FP事務所代表の長岡理知氏は、その代表例が「変額保険」といいます。今回は、定年退職時に勧誘された加入し、数年後に頭を抱えることになった65歳男性の事例を見ていきましょう。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
こんな保険、入らなきゃよかった…年金18万円・退職金2,500万円の68歳夫が大後悔した、「変額保険」の契約。きっかけは「都内高級ホテル・紅茶とケーキ付き無料セミナー」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

「お金を増やしながら万が一に備えられる」という甘い言葉

後日、個別相談のために同じホテルのラウンジに現れたのは、黒いスーツを着た30代風の男。「講師から引き継いでご相談に乗ります」と差し出された名刺には、保険代理店の名前があります。

 

「保険の営業の方がFPをやっているんですね」とTさんは少し戸惑いました。(質問したかったのは保険営業マンではなく、FPだったのだが……。でも、医療保険の見直しもしたかったし、ちょうどいいか)と思いなおします。

 

「医療保険を見直したくて来たんです」と切り出すと、この保険営業マンからはあっさりとした返答が。「医療保険は必要ありませんよ。高額療養費制度がありますから。医療保険なんて入るのは無知な人だけです。それより、Tさんが考えるべきは老後資金のほうです」。

 

この保険営業マンの自信満々な口調と、少し押し付けがましい圧のある態度に違和感がありました。なにかで決まっている段取りなのか営業マンは「ライフプランニング」と称してTさんの人生計画を聞こうとします。Tさんはいろいろ質問に答えますが、営業マンは別にその話に興味もない様子。なんのためにそんな話をしているのかわからなくなったころ、男性が差し出してきたのが「有期型の変額保険」の設計書でした。

 

「銀行に預けていてもお金は増えません。この保険なら、プロが国内外の株式などで運用してくれるので、インフレ対策にもなります。もしものときの死亡保障もしっかりついていますよ」

 

月々の保険料は10万円、死亡保障は2,000万円。満期を迎えるのは85歳です。「えっ、高い保険ですね。年金が18万円なのに、月10万円は無理ですよ」とTさんがいうと、担当者はその言葉を待っていたとばかりに畳みかけます。

 

「年金から払うとお考えになるから、高く感じるんです。退職金の置き場所を、銀行から保険へ少しずつ変えるだけですよ。お金がなくなるわけではありません。置いてある場所が変わるだけです」

 

「定期預金や個人向け国債が安全だと聞いているのですが、その運用ではダメなんですか」とTさん。この保険営業マンは圧力的な口調で答えます。「ダメです。インフレ率を超えるような運用をしないと意味がないです」。

 

Tさんが本当に興味を持っている医療保険の話は否定され、掛け金が高いという意見も否定され、次第に雰囲気は、この保険に入らないような人は無知の弱者とでもいわんばかりに。「わかりました、前向きに検討します」そういってその場は帰りました。

 

家に帰って設計書の内容を妻のKさんに説明すると、「年金が18万円なのに、毎月10万円も払っていけるの」と眉をひそめました。「これは掛け捨てるんじゃない。置き場所を変えるだけだ。お金を増やしながら保障も得られるなら一石二鳥だ」と、Tさんはなぜか妻を説得。

 

その2日後。Tさんはあの男性営業マンに会い、変額保険の申し込みをしました。