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「40年分のご褒美」に選んだ往復ファーストクラス
「長年勤め上げたご褒美だ。これくらい思い切ってもいいだろう」
60歳で定年退職を迎えた夫Kさんの口座に、退職金2,000万円が振り込まれたのは4月のことでした。Kさんは大学を出てから40年近く、同じ会社で営業ひと筋に働いてきました。中小企業で経営スタイルはスマートではなく、ストレスが溜まることも多かったようです。
30代前半で神奈川県の小田急線沿線に建てた一戸建ては、昨年ようやくローンを返し終えたばかり。2人の子どもの大学資金も払い終わり、夫Kさんはこの上ない解放感に浸っていました。
「思えば、節約のために毎日納豆を食べ続けてきた気がする」と夫Kさんは笑います。
家計をやりくりしてきたのは妻のYさん(58歳)です。結婚後は専業主婦となった妻Yさんは、結婚当時に初めて買ったパソコンのExcelで家計簿をつけ続けてきました。マイホームと子どもの大学資金を貯めることに頭がいっぱいだったといいます。食費も節約し、家族での旅行も一度だけ。子どもたちは不満そうでしたが……。夫だけの収入では足りず、子どもが中学校に入ってからは近所のスーパーでパートをしてきました。
退職時に残っていた貯蓄は900万円ほど。だからこそ通帳に印字された退職金の金額が眩しく見えました。夫婦で頑張ったかいがあります。それまでの苦労が報われたような気がしました。
夫婦の長年の夢は、ヨーロッパ旅行でした。退職金と貯金を合わせて2,900万円。「足腰が弱ったら遠出もできなくなる。元気なうちに行こう」と夫Kさんが提案しました。Kさんが旅行会社でもらってきた往復ファーストクラスのプランを妻Yさんに見せると、驚きました。「ビジネスクラスでも十分じゃない?」といいかけた妻Yさんに、「なにいってるんだ、退職記念だろ」と夫Kさん。
出発の日、空港の専用ラウンジでシャンパンを口にした妻のYさんは、「夢みたい」と何度もつぶやきました。横になれる座席でぐっすり眠り、目が覚めるころには、もうパリが近づいていました。パリでは歴史ある格式高いホテルに泊まり、ミシュランの星付きレストランで食事。そして買い物。妻のYさんが生まれて初めてブランドのバッグを手に取ったとき、Kさんは迷わずカードを差し出しました。
パリのあとは、ローマ、フィレンツェと回りました。フィレンツェの最後の夜、丘の上のレストランで街の灯りを見下ろしながら、Kさんはグラスを持ち上げました。「40年、よく頑張ったな。俺も、母さんも」というKさんに、妻Yさんは目を赤くしていたといいます。
2週間の旅でかかったお金は約500万円。それでも手元にはまだ2,400万円あります。Kさんは旅の余韻に浸りながら、「40年真面目に働いてきたんだ。このくらいは当然だ」と満ち足りた気持ちでいました。500万円以上の価値になった、と。