年齢とともにケガや病気のリスクは高まります。リタイア生活がはじまり医療費や生活費が不安なとき、手厚い保障や資産運用を謳う保険を勧められると、つい加入したくなるものです。しかし、保険のなかには「60代からの加入にはまったく向かないもの」もあります。長岡FP事務所代表の長岡理知氏は、その代表例が「変額保険」といいます。今回は、定年退職時に勧誘された加入し、数年後に頭を抱えることになった65歳男性の事例を見ていきましょう。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
こんな保険、入らなきゃよかった…年金18万円・退職金2,500万円の68歳夫が大後悔した、「変額保険」の契約。きっかけは「都内高級ホテル・紅茶とケーキ付き無料セミナー」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

140万円も減ってしまった変額保険

<事例>

夫Tさん 68歳 元会社員

妻Kさん 63歳 パート

 

「140万円も、どこへ消えたんだ」

 

Tさんは長年勤めた会社を定年退職した65歳です。退職時に加入した保険について保険会社から届いた一枚の手紙を読み、恐怖心に襲われました。

 

加入した当時、「プロが株で運用して、解約返戻金を増やしてくれる保険です」と勧められ、毎月10万円ずつ、3年間で360万円を払ってきました。「株式で運用して老後のお金を長持ちさせましょう」と保険営業マンがいったのです。

 

この3年、株価は上がり続けていました。NISAをやっている自分の息子が最近すごく増えていると何度もいうので、自分のお金も増えていると思い込んでいました。ところが、手紙で説明されていた解約返戻金は、220万円。360万円も払ってきたというのにです。

 

妻のKさんが、手紙をのぞき込みました。「え? 増えるっていわれたから入ったんじゃなかったの」と困惑した様子。「米国株が増えたらこの保険も増えるはずでしょ?」

 

Tさんの保険は、なぜ140万円も減ったのか。話は3年前、定年退職の春にさかのぼります。

きっかけは、退職金活用・無料セミナー

定年退職をしたTさんの口座には、退職金の2,000万円とこれまで貯めてきたお金の2,500万円が入っていました。今後もらえる公的年金は月あたり18万円ほど。5歳年下の妻のKさんが年金を受け取るのは、まだ先です。家計をざっと計算すると、2人の年金だけでは年間収支は赤字。4,500万円のお金を取り崩しながら生活することになりそうです。

 

Tさんの気がかりは医療費のこと。自分の父親が60代でガンで亡くなったこともあり、加入している医療保険を、退職を機に見直したいと考えていました。

 

そんな5月のある日、新聞の折り込みチラシが目に留まります。

 

【退職金を減らさないために 無料マネーセミナー】

 

会場は都心の高級ホテルの一室で、ケーキセット付き、参加費は無料です。

 

「無料だし、こういう勉強会に出てもいいかもしれない。退職金の運用も知りたいしな」

 

そうして妻のKさんと出かけると、厚い絨毯の部屋に、同じ年ごろの夫婦が20組ほど座っていました。みなさん退職を控えた方か、退職したばかりの方でしょう。紅茶とケーキが運ばれてきます。「これで無料だなんて、ずいぶん親切ね」と、妻のKさんは小声でいいました。

 

司会者から講師は「ベテランのファイナンシャルプランナー」だと紹介されます。講師が開口一番、「今日は中立の立場でお話しします。銀行や証券会社の勧誘を受けている方は、慌てないでください。今日のお勉強をしてから決めても遅くありません」といいました。その一言で、会場の空気が緩みます。

 

スクリーンには「人生100年時代」「預金だけではインフレ率に負ける」という文字が映し出されました。特に強調されたのは、資産運用をした場合としなかった場合、手持ちのお金の寿命の比較です。Tさんの場合、資産運用をしなければ、70代後半でお金がなくなってしまうようです。

 

「インフレ率は1.9%です。これを超える運用をしない限り、お金の寿命はもっと短くなります」と講師が畳みかけます。

 

金融についてずっと無関心で来たTさん。講師の話が新鮮でつい身を乗り出して話を聞き、メモをたくさん取りました。2時間弱のセミナーの最後で、講師が「この地元を担当するFPが個別に相談に乗ります」とのお知らせが。個別相談の予約をし、Tさん夫婦は帰りました。