老後の資金に一定のゆとりがあるなかで、家族や孫のために住まいを整える高齢者は少なくありません。しかし、良かれと思って行った巨額の設備投資が、のちに予期せぬ負担や後悔を生むケースも。ある男性の事例から、高齢期の住宅改修において真に優先すべき視点を考えます。
まったく意味なかったな… 〈年金月18万円〉〈貯金2,000万円〉65歳男性、「孫が喜ぶから」と500万円で「豪華テラス」にリフォームも、突如訪れる「理不尽な現実」 ※写真はイメージです/PIXTA

高齢期の住まいに求められる「維持管理」と「身体機能低下」への視点

施工からわずか1年後、想定外の事態が発生します。息子の急な地方転勤が決まり、孫たちは遠方へ引っ越すことになりました。年に数回しか帰省できない距離となり、あれほど賑やかだった庭から孫の気配が消えました。

 

それだけではありません。山内さん自身の身体にも予期せぬ変化が現れました。67歳を迎えた頃から膝の関節痛が悪化し、しゃがみ込む姿勢をとることが難しくなったのです。

 

「こんな豪華にしてもまったく意味なかったな…」

 

誰もいない静まり返った庭を眺めながら、山内さんはポツリとつぶやきました。

 

孫が来なくなった庭には、維持管理の手間だけが残されました。人工芝の隙間から生える雑草の草むしり、ガーデンシャワーの冬場の水抜き作業、テラス屋根の泥汚れの清掃など、屋外設備の維持は膝を痛めた山内さんにとって重い身体的負担です。砂場の蓋を開ける作業すら億劫になり、ブランコ用の強固なアウトリガーは、単なる洗濯物干し竿の固定台として使われるだけになりました。

 

内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、高齢者が住み替えや住まいの見直しを意識するきっかけとして、最も多く挙げられた理由は「健康・体力面で不安を感じるようになったから」(24.8%)。次いで「自身の住宅が住みづらいと感じるようになったから」(18.9%)となっています。

 

特に「健康・体力面での不安」を挙げる割合は、60〜64歳では16.1%にとどまるものの、65〜69歳で19.0%、70〜74歳で23.3%、75歳以上では35.9%と、加齢とともに大きく上昇する傾向が示されています。

 

山内さんが投じた500万円は、孫の成長や家族の生活環境の変化、そして自身の加齢という現実の前に、活用されない設備となってしまいました。高齢期における住まいづくりで不可欠なのは、一時的なイベント性ではなく、将来にわたって自分自身が安全かつ容易に維持管理し続けられるかという視点です。