多額の学費を工面して大学へ送り出した我が子が、卒業直前に「就職しない」と言い出したら――。安定した人生を歩んでほしいと願う親の切実な願いと、自らの可能性を信じる子どもの意志。両者が激しく衝突したとき、家族はどう向き合うべきでしょうか。教育費への葛藤と進路のギャップから、親子のあり方を考えていきます。
「えっ…俺、就職なんてしないよ。」〈学費年150万円〉一流私大に通う長男の衝撃発言に、〈月収55万円〉48歳父が激怒。一触即発の雰囲気を変えた「妻の一言」 ※写真はイメージです/PIXTA

「俺、海外に行くから」大学4年生の長男が突然の宣言

「えっ……俺、就職なんてしないよ。卒業したら海外を回りたいんだ」

 

東京都内の自宅で、長男の翔さん(22歳・仮名)が口にした言葉に、父親の誠さん(48歳・仮名)は耳を疑いました。

 

会社員の誠さんの月収は55万円。パート勤めの妻の美穂さん(46歳・仮名)、長男、高校生の次男との4人暮らしです。

 

長男は都内の有名私立大学に通う4年生。年間約150万円の学費は「正直シンドイ」と誠さんは漏らします。

 

子どもたちには自分と同じような経済的な苦労をさせたくないと考えていました。家計をやりくりしながら大学まで進学させたのも、将来、安定した生活を送ってほしかったからです。

 

ところが、卒業まで半年を切ってもなお、翔さんは就職先を決めていませんでした。

 

以前から進路を尋ねていたものの、「まだ考えている」「今は就職する気になれない」と、はっきりした答えはありませんでした。そして、この日、明かされたのが海外放浪の計画でした。

 

翔さんは大学で国際関係や開発経済について学び、海外の教育格差や貧困問題に関心を持つようになったといいます。卒業後は半年ほどかけて東南アジアやアフリカを回り、現地の学校や支援活動を自分の目で見てみたいというのです。

 

「実際に行ってみないとわからないこともあるだろ。将来、国際協力に関わる仕事をするかもしれないし、今のうちにいろいろな国を見ておきたい」

 

本人なりの目的はあるようでした。しかし、帰国後の進路は決まっていません。

 

「それで、帰ってきたらどうするんだ。仕事は?」

「帰ってから考えるよ。今は海外に行くことが大事なんだ」

 

誠さんは声を荒らげました。

 

「ふざけるな! 大学まで行かせてもらって、卒業したら旅行か。いつまで学生気分でいるつもりなんだ!」

 

翔さんはアルバイトで貯めたお金を旅費に充てるつもりでしたが、具体的な予算や滞在先も十分に決まっていませんでした。誠さんの頭からは、これまで負担してきた学費のことが離れませんでした。

 

文部科学省の調査によると、令和7年度の私立大学(学部)の初年度学生納付金は平均150万7,647円。私立大学への進学には、初年度からまとまった費用が必要です。

 

「こっちは毎月の給料から学費を出してきたんだぞ。卒業したら働いて、自分の生活くらい自分で支えるのが普通だろう!」

 

翔さんも反発します。

 

「別に遊びたいだけじゃない。自分の将来を考えるために行きたいんだよ」

「将来を考えるなら、まず就職先を探せ!」