親世代が退職金や蓄えを投入して建てた二世帯住宅。安心の老後を描いたはずが、家族関係が崩壊するケースも。世代間の生活習慣や育児方針のズレは、資金を出した親を孤立させる要因になり得ます。ある家族の事例から、二世帯同居に潜むリスクについて考えます。
「お義父さん、この線から入ってこないでください!」〈年金月29万円〉65歳父、二世帯同居の〈43歳嫁〉から告げられた「まさかの絶縁宣言」のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

退職金を投じた二世帯住宅での誤算

長年、大手メーカーで働いていた北村敬三(65・仮名)さん。現在は公的年金と企業年金を合わせて月29万円の年金があり、老後資金についての大きな心配はありませんでした。

 

そんな折、長男の健太(38・仮名)さんが、マイホーム購入を迷っているという話を聞きます。

 

子どもはまだ小さい。隣近所を気にせずに子育てができる戸建てがいい。ただ共働きだから、できるだけ駅に近いところが保育園の関係などでいいのだが、マンションばかりで戸建ては(価格的にも)無理――。

 

そこで敬三さんは妙案を思いつきました。

 

「二世帯住宅はどうだ? 費用は俺が出してもいい」

 

孫の面倒をみてあげられるし、費用面でも負担は少ない――健太さんは家族と相談。了承を得て、二世帯同居へと舵を切っていきました。

 

二世帯住宅への建て替え費用は、トータル2,500万円で、退職金の一部を充てました。玄関や一部設備を共有するものの、お互いの家族のスペースを十分に確保しました。こうして長男の妻である北村美咲(43・仮名)さんや、孫の北村学(5・仮名)くんとの賑やかな暮らしが始まります。

 

同居開始後、孫への接し方を巡る認識のズレが表面化し始めました。学くんには食物アレルギーがあり、厳格な食事管理が必要でした。

 

敬三さんと妻の北村恵子(63・仮名)さんもアレルギーの存在自体は知っていました。きちんと確認したら問題ないだろうと、学くんにねだられると、美咲さんの目を盗んで市販のお菓子を与え続けていたのです。何度か与えても症状が出なかったため、敬三さんたちは「いつもと同じだし平気だ」とすっかり油断していました。

 

しかし半年が過ぎたある日、敬三さんが裏面表示を確認したうえで新しいお菓子を与えたところ、学くんの皮膚に赤みが出て咳き込み始めたのです。美咲さんが異変に気付き、問い詰められた敬三さんは隠れてお菓子を与えていたことを白状します。

 

「命にかかわることなんです、勝手に食べ物を与えないでください」と激怒する美咲さんに対し、敬三さんは「今まで大丈夫だったから」と見当違いな弁明を行いました。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上の者がいる世帯に占める「三世代世帯」の割合は、昭和55年(1980年)の50.1%から減少し続け、令和6年(2024年)には7.1%(194万7千世帯)と1割を大きく割り込んでいます。一方で「夫婦のみの世帯」(31.8%)や「単独世帯」(32.7%)がそれぞれ約3割(合わせて約6割強)を占めており、世帯構造の小規模化が進んでいます。

 

かつて一般的だった親・子・孫の三世代同居が希少化するなかで、同居生活においては「生活リズムの違い」や「育児方針の対立」といった価値観のズレが強いストレス要因となりがちです。