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月2万円でも「弟がいてくれるから安心」
大学卒業後、ナオコさんはそのまま東京で就職しました。以来20年以上、仕事をし、人間関係を築きながら東京で暮らしています。一方、弟は大学を卒業してからも実家に残りました。
家に入れるお金は月2万円。それでも食事や洗濯など、身の回りのことは母親がしていました。30代後半になっても大きくは変わりません。
「少しは家事をやらせたら? あの子のためにもならないよ」「お母さんだって、いつまでも元気じゃないでしょう」
ナオコさんがそう言っても、母親は、「いいのよ。あの子がいてくれるから安心なんだから」と笑います。
父親が亡くなったあとも、「男の子が家にいてくれるから心強い」「この家も、いずれ弟が守ってくれるから」と話していました。
ナオコさんも、そのうち何も言わなくなりました。
「本人たちがそれでいいなら、もう私が口を出すことでもないと思ったんです」
「家を継ぐ」はずだった弟は、新築を建てて独立
ところが昨年、40歳になった弟が結婚しました。
長年実家で暮らし、家に入れていたお金も月2万円ほどだったため、弟にはそれなりの貯蓄があったようです。結婚が決まると、ほどなくして妻と暮らすための新築一戸建てを購入し、実家を出ていきました。
「あれだけ実家で身の回りのことをやってもらっていたんだから、お金は貯まるよね、とは思いました。でも、それ自体を責めるつもりはなかったんです」
ただ、ナオコさんには引っかかるものがありました。
自分は「うちはお金がないから」と進学先まで制限された一方、弟は実家で長く親の支援を受け、その後は新しい家を構えた。
「それでも母はずっと『弟は家を継ぐから』って言っていたんですよね。新築を建てて出ていったと聞いたときは、『あれ、家を継ぐ話はどうなったの?』とは思いました」
久しぶりに帰省すると、一人暮らしになった母親は以前より少し小さく見えました。家の中にも、以前ほど手入れが行き届いていないところがあります。
母親は弟の結婚を喜んでいましたが、話しているうちに少しずつ愚痴が出てきました。
「弟、最近は全然顔を出さないのよ」「お嫁さんの予定ばっかり優先して」「結婚したら、本当に変わっちゃった」そして最後には、「あんなにいろいろしてあげたのにね」と寂しそうに漏らしました。
ナオコさんは内心、「それ見たことか」と思ったそうです。ただ、その場では何も言いませんでした。
ところが、続く母親の言葉には黙っていられませんでした。
「やっぱり女の子は頼りになるわね」
何気なく今後の暮らしについて話していたとき、母親はさらりと言いました。
「まあ、これから何かあったら、お姉ちゃんにお願いするから」
「何を?」
ナオコさんが聞き返します。
「老後よ。病院とか、介護とか。やっぱり女の子は頼りになるわね。女の子を産んでおいてよかったわ」
思わず聞き返しました。
「弟は?」
すると母親は、少し困ったような顔で答えました。
「だって弟は結婚したでしょう。お嫁さんもいるんだし、あんまり迷惑をかけられないじゃない」「私には迷惑かけてもいいの?」
母親は黙りました。
ナオコさんの頭には、これまでのことが次々と浮かびました。
「ずっと『弟が家を継ぐから』って言ってたよね。私にはお金がないから国公立へ行けって言ったのに、弟は私立。40歳まで実家にいて月2万円しか入れなくても、ご飯も洗濯も全部やってあげた。それも『家を継ぐ男の子だから』だったんでしょう?」
母親は、「でも、あなたはお姉ちゃんだし……」と口ごもりました。
そこでナオコさんは、長年言えなかったことを口にしました。