現役時代に実績を重ね、十分な年金を得ている人でも、老後の資金計画が一変することがあります。ある男性の事例から、老後の生活において見落としがちな危機と、知っておくべき現実について考えます。
「俺を誰だと思ってるんだ!」〈年金月20万円〉部下から慕われた66歳元部長、〈年金事務所〉で怒号のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

年金事務所の担当者に、思わず言いがかり

離婚話がこじれるなか、妻から「年金分割について調べている」と告げられました。そこで佐藤さんは、初めて年金事務所を訪れるのです。

 

「俺はこの会社で部長までやったんですよ。40年以上、厚生年金を払ってきた。妻はずっと専業主婦だったんです。それなのに、私の年金を半分持っていくんですか」

 

職員は、声の調子を変えずに説明しました。

 

「年金分割は、これまでの役職や年収、会社での立場によって判断する制度ではありません」

「……は?」

「制度の要件を満たしているかどうかで決まります」

 

その瞬間、佐藤さんの表情が変わりました。

 

「俺を誰だと思ってるんだ!」

 

離婚時の年金分割は、婚姻期間中の厚生年金記録を分割し、その記録をもとに、それぞれの老齢厚生年金が計算されます。そもそも基礎年金は対象外です。簡易的な計算の結果、佐藤さんの場合、6万円ほど受給額が減ることがわかりました。しかし佐藤さんは、納得できません。

 

さらに説明を聞くと、2008年4月以降の婚姻期間中に妻が第3号被保険者だった場合、対象となる夫の厚生年金記録を2分の1ずつ分割できます。双方の合意は必要ありません。佐藤さんと妻の美代子さんは40年以上の結婚生活。そのうち、妻が専業主婦だった期間も長くありました。

 

「制度上、要件を満たせば、妻が勝手に手続きできる期間もあるということですか?」

 

怒りをあらわにしながら問いただす佐藤さん。それは職員に向けたものではなく、自分との生活を終わらせようとしている妻に対する怒りでした。

 

帰宅した佐藤さんは、妻に問いました。

 

「本当に離婚するつもりなのか」

 

美代子さんの意思は変わらなかったといいます。これまで「家族のために働いてきた」という自負があります。しかし、それは独りよがりだったことを思い知らされました。

 

厚生労働省『令和6年 人口動態統計(確定数)』によると、2024年の全離婚件数のうち、同居期間20年以上、いわゆる熟年離婚は21.9%。1947年の統計開始後、最高値を記録しました。離婚件数は、最も多かった2002年比64%ですが、熟年離婚の存在感は増すばかり。その背景には、年金分割など制度整備が進み、離婚しても経済的に困らないという事情があるでしょう。

 

本当に離婚するのかどうかは決まっていないものの、佐藤さんは、老後の生活の再設計を進めているといいます。