※写真はイメージです/PIXTA
単調な毎日のなかに生じた変化
定年退職から数ヵ月。漠然としていた定年後の生活でしたが、おおよその月支出が見えてきました。
食費は月3万円、光熱費と通信費が月3万円、管理費・修繕積立金が月4万円、その他雑費や交際費で、月15万円ほど。年間にすると約180万円、年金を受け取るまでの5年間で、最低でも900万円はなくなります。
「50代になってから、老後を見据えるようになってからは、お金は増えていくもの――という感覚がありました。だから貯蓄がどんどん減っていく現状に、焦りがないといえばウソになります」
多くの人の場合、ここで再就職といった選択をするでしょう。しかし浩さんは、「もう仕事はいいかな」と語ります。
「離婚の原因も、子どもたちとどこか疎遠なのも、仕事ばかりで家庭を顧みなかったことが大きかった。だから本当に生きていけない――とならない限り、仕事はいいんです」
しかし、会社員でなくなった現在の1日は、あまりに単調です。
朝6時には目が覚め、タブレットで新聞を隅から隅まで読みます。朝食はご飯に、昨晩のおかずの残りで済ませます。
午前10時くらいには外出をします。たいてい、市立図書館など時間を潰せるところに向かいます。お昼ご飯は近くにある役所の食堂で済ませることが多く、ワンコインで食べられるからというのがその理由です。
夕方、スーパーに立ち寄り、肉か魚とパック野菜を買って家路につきます。買ってきた肉や魚を焼き、野菜を添えて夕食を済ませます。20時ごろお風呂に入ったあと、図書館で借りてきた本を読み、22時ごろには就寝。翌朝、また同じ1体が始まります。
「ビックリするくらい、何もない日が過ぎていきます。『今日1日、誰とも話さなかった』と気づくこともしばしばあります」
内閣府『令和7年 人々のつながりに関する基礎調査結果』によれば、同居人がいない単身者で孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人は9.8%と、同居人がいる場合の3.4%を大きく上回ります。さらに男性単身者に限ると、その割合は12.8%に達します。また、現在の孤独感に影響を与えた出来事として「一人暮らし」を挙げる人が最も多いことも明らかになっています。
浩さんのように仕事や家族から離れ、社会的なつながりを失うことは孤独感を強める大きな要因になります。しかし、社会活動の参加者は未参加者に比べ孤独を感じる割合が低いことも判明しています。
毎日、時間だけが過ぎていくことに少し焦りのようなものを感じ始めていたとき、浩さんは「見守りボランティア」を始めました。毎朝7時45分から、交通量の多い交差点に立ち、小学生の登校を見守ります。時間にして、毎日40〜50分程度のボランティアです。しかし、このボランティアを始めたことで、毎日に少し変化が生じたといいます。
「子どもたちはすぐに顔を覚えてくれて、元気に『おはようございます』と話しかけてくれる。保護者の中にも顔を覚えてくれる人がいて、スーパーで『毎日、ありがとうございます』なんて声をかけられることもあります」
ほんの少しの変化ですが、毎日の充実度は大きく違うといいます。
内閣府『令和6年度高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、高齢者が継続的に「ボランティア活動」を行っている割合はわずか6.7%。一方で、同府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』では、高齢者が生きがいを感じる瞬間として「他人から感謝された時」が31.7%、「社会奉仕や地域活動をしている時」が12.5%に達しています。
佐藤さんのように地域活動を通じて「ありがとう」の言葉や他者との関わりを得ることは、退職後の単調な日常に新たな価値をもたらすという側面を持っているようです。