「働くだけ無駄」と、82歳の父親の年金を頼りに暮らす52歳の男性。かつて正社員だったプライドから希望条件を下げられず、気づけば無職のまま実家に身を寄せる生活へ……。ある親子の事例から、年齢を重ねてからの再就職の現実や、やがて訪れる「親なき後」の生活リスクを考えます。
「親の金を当てにして生きています」〈年金月18万円〉82歳父と同居する52歳次男、「働くだけ無駄」と切り捨てたワケ ※写真はイメージです/PIXTA

52歳元正社員「条件を下げてまで働くのか」

82歳の山中昭さん(仮名)は、52歳の次男・健司さん(仮名)と2人で暮らしています。昭さんの妻は数年前に亡くなりました。

 

現在の収入は老齢年金のみで、額面は月18万円。税金や社会保険料などが差し引かれ、実際の振込額は月16万円ほどです。

 

一方、健司さんは無職です。45歳まで食品メーカーに正社員として勤めており、年収は約550万円でした。決して高収入とは言えませんが、生活に困ることはありませんでした。

 

退職のきっかけは会社の業績悪化です。部署の縮小が決まり、仕事のやり方も大きく変わったことで、健司さんは退職を決意しました。当時の貯蓄は約700万円。

 

「まだ45歳です。再就職なんて、すぐ決まると思っていました」

 

ところが現実は違いました。転職活動を始めても、以前と同等の条件の求人は簡単には見つかりません。ある企業から提示された年収は約400万円でした。生活できない金額ではありませんでしたが、健司さんは断りました。

 

「400万円なら働けますよ。でも、45歳まで正社員で働いてきて、なんでそこまで条件を下げなきゃいけないんですか」

 

厚生労働省の「雇用動向調査」によると、転職によって前職より賃金が「減少」した割合(一般労働者間)は3割を超え、そのうち「1割以上の減少」となった割合も2割以上に上ります。特に年齢別で見ると、健司さんが転職活動を始めた45~49歳では賃金減少の割合は28.1%ですが、50~54歳になると「減少」の割合は44.7%(うち1割以上の減少は27.8%)へと跳ね上がります。年齢が上がるほど、前職と同等の条件を維持して再就職することが難しくなるのが転職市場の厳しい現実です。

 

その後も求人を探したものの、希望条件に合う仕事は見つかりませんでした。派遣社員やアルバイトで働く時期もありましたが、収入は大きく減少。そして50歳を前に、実家へ戻りました。

 

実家は昭さんが30年前に購入した戸建て住宅で、ローンはすでに完済しています。実家に戻ったことで健司さんの家賃負担はなくなり、生活費の一部も昭さんが負担するようになりました。

 

2人の生活費は、食費が月5万円、光熱費が2万5000円、通信費が1万5000円。固定資産税や火災保険、日用品、医療費などを合わせると月13万円ほどになります。さらに健司さんの国民健康保険料や国民年金保険料、衣類費などを含めると、全体の支出は月17万円前後に達します。

 

年金の手取り(約16万円)だけでは足りず、不足分は昭さんの預貯金から出しています。昭さんの預貯金は約1100万円。健司さん自身にも約350万円の貯蓄がありますが、なぜ自分の貯蓄を使わないのでしょうか。

 

「350万円なんて、収入がなければすぐなくなります。親父は年金をもらっているし、家もある。親父が元気なうちは親父の年金を使って生活したほうが、自分の貯蓄を残せるじゃないですか」

 

健司さんは悪びれる様子もなく話します。昭さんも決して余裕のある家計ではありません。以前は年金から毎月2万円程度を貯蓄に回せていましたが、今は残りません。むしろ毎月少しずつ預貯金を取り崩している状態です。

 

「息子にも貯金はあるんですよ。それなのに私のお金が減っていく。そこが納得できないんです」