大手企業の元役員が提示された好条件で中小企業へ再就職。しかし、そこには大企業の常識が通用しない苛烈な現実が待っていました。転職を機に思わぬ壁へぶつかったある男性の事例から、ミドルシニア世代が直面する再就職の現実について見ていきます。
「俺は元大手の役員だぞ…」〈退職慰労金3,500万円〉58歳で会社を去った大手元役員、「地方中小企業」で待ち受けていた屈辱の日々 ※写真はイメージです/PIXTA

聞こえてくる陰口…それでも会社を辞めない理由

入社から半年。高橋さんは東京在住のまま、週2回は北陸の本社へ通っています。さらに東京の大手企業への営業だけでなく、既存顧客への訪問や工場との調整も自ら行っています。

 

本社への交通費は会社負担ですが、往復で約7時間かかります。年収は提示された通り、580万円。大企業時代の1,600万円から大きく下がりました。

 

大企業での常識が通用せず、「あの人、大手の役員までやっていたのに……」と陰口を叩かれていることも知っています。

 

「最初は、元役員として経験を買ってもらったと思っていました。でも、経験があることと、その会社で役に立てることは別でした」

 

大企業では、役職が上がるほど分業が進みます。一方、人材不足に悩む中小企業では、管理職にも現場対応が求められます。どちらが正しいという話ではありません。問題は、転職する側がその違いを理解しているかどうかでした。

 

屈辱的なことを次々と味わうなかでも、仕事を辞めないのは、老後を見据えてのこと。

 

「年金を受け取るまで7年。それまでに2,700万円ほどの支出となる。貯蓄はうまくいって2,500万円ほど。安心はできない」

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査2025年(二人以上世帯)』によると、世帯主が50代の世帯における金融資産保有額は平均1,908万円(金融資産非保有世帯を含む)、中央値は700万円。また、同世代が考える「年金支給時に最低準備しておくべき金融資産残高」の平均は2,459万円です。

 

高橋さんの貯蓄は年金受給時に2,500万円程度へ減少する見込みですが、それでも同年代の平均想定額や保有実態を上回っています。しかし、同調査では50代の84.0%が老後の生活を「心配である」と回答しており、十分な資産があっても現役時代の生活水準維持や予期せぬ支出への不安から、高橋さんのように安心できない人が多いのが実情です。