定年退職を迎え、お金の不安もなく穏やかなセカンドライフを楽しみにしていたのに、退職からわずか1ヵ月後、妻から思いもよらない本音を突きつけられます。ある夫婦の事例から、定年後、円満な関係を保ち、お互いに心地よい距離感を築くためのポイントを考えます。
「毎日家にいられると、ツラいの…」〈年金月18万円〉〈退職金2,000万円〉65歳夫、定年退職から30日後、妻から突きつけられた「まさかの提案の中身」 ※写真はイメージです/PIXTA

「これからは毎日一緒だ」と思っていた

「明日からは、もう会社に行かなくていいんだな」

 

東京都内のメーカーを定年退職した高橋雅彦さん(65歳・仮名)。妻の美紀さん(63歳・仮名)と二人暮らし。退職金は2,000万円ほどで、夫婦の預貯金は計3,600万円ほどになります。また雅彦さん自身、月18万円ほどの年金を受け取り、2年後には美紀さんも月9万円ほどの年金を受け取れる予定です。

 

住宅ローンは3年前に完済しています。大きな借金はなく、月の生活費は23万円程度。夫婦ともに年金受給が始まると、年金だけで十分暮らしていける――これからの生活に特段不安はなく、「働かなくてもいい生活」は順調にスタートを切りました。

 

「再雇用の話もありましたが、もう十分だろうと。これからは、仕事をしていたころはなかなかできなかった旅行とか、趣味とか、そういうところに時間を割きたいと思っていました」

 

美紀さんも反対しませんでした。ところが、退職から1週間もすると、家の中の様子が変わり始めました。それまで雅彦さんが家にいるのは、朝と夜、そして休日だけ。美紀さんはその時間を前提に、自分の予定を組んでいました。ところが雅彦さんが毎日いるようになると、そのリズムが崩壊。

 

「今日、どこ行くの?」

「何時に帰ってくるの?」

「昼は家で食べるよね?」

 

雅彦さんにしてみれば、妻と一緒に過ごす時間が増えたというだけです。しかし、美紀さんは少しずつ外出を控えるようになりました。友人との昼食から帰ると、「今日は何をしていたの」と聞かれる。美容院に行けば、「平日の昼間から美容院か」と言われる。「別に責めているつもりはない」と雅彦さんは言います。しかし、美紀さんは監視されているように感じていたそうです。

 

総務省の『労働力調査(基本集計)』によると、2024年の65歳以上の就業率は25.7%。「65~69歳」に限ると53.6%と、半数を超えています。もはや「年金を受け取る年齢になっても働く」というのがスタンダードになっています。

 

一方で、雅彦さんのように「もう働かない」と決める人が多いのも事実。退職前、雅彦さんが美紀さんに確認したのは、旅行の予定くらいでした。しかし、雅彦さんが会社を辞めたら、1日の大半をどう過ごすのか、どの程度一緒に行動するのか、互いに一人になる時間をどう確保するのか――そうした話は一切してこなかったとのことです。

 

雅彦さんは退職後、午前7時に起きるようになりました。朝食を終えると新聞を読み、テレビをつけます。昼食も自宅です。夕方ごろに1時間ほど散歩に出かけます。

 

「夫が散歩に出ている1時間だけが、自分の時間のように感じていました」

 

ある日、美紀さんは友人との約束を「夫が家にいるから」という理由で断りました。そんな自分自身に、疑問を感じたといいます。その日の夜、雅彦さんに言いました。

 

「毎日ずっと一緒にいるのは、もう無理です」