物価高が続く現代、子どもに心配をかけまいと困窮や本音を隠してしまう高齢者は少なくありません。親の尊厳を損なわずに、子としてどう寄り添い支援すべきか――ある親子の事例から考えます。
「大丈夫、お金は十分ある」…〈年金月8万円・75歳母〉、週1の電話で〈48歳長男〉に本音を隠したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

75歳母「お金は十分あるから」と言っていたが…

「最近、どう? ちゃんと食べてる?」

 

48歳の会社員、佐藤健一さん(仮名)は、毎週日曜日の夜、75歳の母・佐藤和子さん(仮名)に電話をかけています。

 

父(和子さんの夫)を亡くしてから、和子さんは地方の実家で一人暮らし。健一さんは車で4時間半ほどの場所に住んでいます。頻繁に顔を出せる距離ではなく、実家に帰るのは年に2~3回程度。そのため、週1回の電話が母子にとって大切な連絡手段になっていました。

 

ある日の電話で、健一さんは母親の言葉に引っかかりました。

 

「最近、スーパーも高くなったからね。お肉はあまり買わなくなったよ」

 

以前なら、和子さんは「今日は何を作った」「近所の友達とお茶をした」と話していました。ところが、このところ話題になるのは食料品や電気代ばかりです。

 

元々夫婦で商売をしていた和子さん。父(和子さんの夫)が亡くなると店をたたみ、現在の収入は月8万円の年金のみ。元店舗兼住居は、築40年で持ち家。住宅ローンはないものの、あちこち痛んでいて、リフォームをしないと住み続けることは難しいように思えます。

 

しかし、帰省のたびに家の傷みはひどくなるばかり。足を運ぶたびに「直したほうがいいんじゃない? お金がないなら言ってくれたら……」などと話題をふっても、「まだ大丈夫よ。いずれね」とはぐらかされていました。

 

そのような状況下、電話のたびに出てくるのは物価高の話ばかり。さすがに違和感を拭えず、「母さん、生活費、大丈夫なの?」と尋ねたそうです。それでも和子さんは「大丈夫よ。お金は十分あるから」と即答。しかし、健一さんは信じられなかったといいます。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、高齢者世帯の所得分布で「100万~150万円」が最多であり、さらに高齢者世帯の4割は年金のみで生活しています。和子さんのような年金月8万円(年約96万円)での一人暮らしは、経済的に厳しい状況といえます。高齢の親が子どもに心配をかけまいと「大丈夫」と強がり、困窮を隠してしまうケースは少なくありません。数値が示す実態からも、家族による細やかな見守りや具体的なサポートが必要だといえるでしょう。