親の認知症が進行し、施設へ入居できたものの「まさかの事態」で退去を迫られる――。そんな予期せぬトラブルに直面したとき、家族はどう行動すべきなのでしょうか。在宅介護の限界や周囲との孤立など、誰もが直面し得る介護の厳しい現実と、追い込まれた状況を打開するための回避策や相談窓口について解説します。
「もう、面倒見切れません」〈年金月17万円・77歳認知症父〉老人ホームから退去勧告。家族も「引き取り拒否」の絶望 ※写真はイメージです/PIXTA

入居からわずか3ヵ月で届いた一本の電話…突きつけられた「退去勧告」の現実

しかし、穏やかな日々は長くは続きませんでした。入居からわずか3ヵ月が経過した頃、老人ホームの施設長から智子さんのもとへ突然連絡が入ります。「急ぎでお話ししたいことがあるため、今週末に施設までお越しいただけますか」という内容でした。

 

「恐れ入りますが、別の施設への転居をご検討いただけますでしょうか」

 

施設側の説明によると、博さんは環境の変化や認知症の進行により、夜間を中心に大きな声をあげたり、興奮して暴れることが増えていたといいます。そして決定打となったのが、他の入居者とのトラブルでした。意図的ではないものの、制止に入ったスタッフや他の入居者を押しのけた際、相手に怪我を負わせてしまったのです。

 

「入居前に『認知症の受け入れ実績がある』と聞いていたので、まさか退去になるとは思いもしませんでした」

 

一般的に、有料老人ホーム等の入居契約には退去要件が定められています。主な理由としては「長期入院が必要になった場合」「費用の支払いが困難になった場合」などのほか、「他の入居者やスタッフへの著しい迷惑行為・暴力行為」が挙げられます。博さんのケースはまさにこれに該当してしまいました。

 

智子さんはすぐに兄や弟に事情を説明し、支援を求めました。しかし、戻ってきたのはあまりにも冷淡な反応です。
「『うちでは引き取れないよ』『そっちで新しい施設を探してくれ』と言われ、他人事のような態度に強い憤りを覚えました」

 

頼れるあてを失った智子さんは、ケアマネジャーとともに大急ぎで新しい転居先を探し始めました。しかし、ここで最大の壁が立ちはだかります。転居理由を聞かれた際、「前施設での暴力・暴れによる退去」という事実を伝えると、どの施設からも難色を示されてしまうのです。

 

施設から示された退去の猶予期間は3ヵ月。

 

「最悪の場合、また以前のように実家で私が一人で介護するしかありません。でも、一度限界を迎えた在宅介護を続ける自信はありませんでした」

 

窮地に追い込まれた智子さんを救ったのは、ケアマネジャーの迅速な仲介でした。一人で抱え込まず自治体の「地域包括支援センター」へ相談を要請。併せて専門の精神科医療機関を受診させ、認知症の行動・心理症状(BPSD)を和らげる薬の調整をおこないました。

 

精神的な興奮状態が落ち着いたタイミングで、医療ケアや行動障害への対応に特化した「特別養護老人ホーム(特養)」への申し入れを実施。事情を汲み取った特養の緊急枠が確保でき、猶予期限の直前に間一髪で転居先を決めることができたのです。

 

「ケアマネジャーさんや自治体のサポートがなければ、共倒れになるところでした」と智子さんは胸を撫で下ろしています。