親の認知症が進行し、施設へ入居できたものの「まさかの事態」で退去を迫られる――。そんな予期せぬトラブルに直面したとき、家族はどう行動すべきなのでしょうか。在宅介護の限界や周囲との孤立など、誰もが直面し得る介護の厳しい現実と、追い込まれた状況を打開するための回避策や相談窓口について解説します。
「もう、面倒見切れません」〈年金月17万円・77歳認知症父〉老人ホームから退去勧告。家族も「引き取り拒否」の絶望 ※写真はイメージです/PIXTA

認知症の進行で在宅介護が限界に

都内で暮らす会社員の林田智子さん(仮名・47歳)は、高齢の父親の介護問題に直面した一人です。父親の博さん(仮名・77歳)に認知症の症状が現れ始めたのは数年前のこと。当時、智子さんは2歳上の兄と1歳下の弟と今後の対応について話し合いました。

 

「兄も弟も結婚して自分の家庭を持っていましたし、子どもの教育費や住宅ローンで手いっぱいでした。消去法的に、独身で実家からも近かった私が主に面倒を見るしかないと腹をくくったんです」

 

智子さんは実家に戻り、働きながら介護を続けましたが、年月の経過とともに博さんの症状は確実に進行していきました。特に深刻だったのが「徘徊」です。

 

「父は若い頃に柔道をやっていたこともあり、70代後半になっても相当な体力がありました。少し目を離したスキに家を抜け出し、警察から『10km以上先のアパート付近で保護しました』と連絡が入ったときは、生きた心地がしませんでした」

 

『令和8年版高齢社会白書』によると、令和4年における65歳以上の認知症高齢者数は443.2万人(有病率12.3%)、その前段階の軽度認知障害(MCI)高齢者数は558.5万人(有病率15.5%)と推計されています。令和22(2040)年には、認知症高齢者数が584.2万人(有病率14.9%)、MCI高齢者数が612.8万人(有病率15.6%)に達する見通しです。

 

このように認知症やMCIを患う高齢者は急増しており、智子さんのように働きながら厳しい在宅介護の現実に突然直面し、精神的・肉体的にも限界を迎えて孤立してしまうケースは珍しくありません。

 

日中の仕事中も「また徘徊しているのではないか」と不安で業務に集中できず、夜間も父親が動く気配で何度も目を覚ます日々。限界を迎えた智子さんは、ケアマネジャーと相談し、施設への入所を検討し始めました。

 

博さんの収入は月額約17万円(手取り約15万円)の公的年金のみ。兄弟で資金を出し合うことも協議しましたが、最終的には父親の年金と貯蓄の取り崩し(月5万〜7万円程度)で賄える範囲の施設を探すことになりました。

 

条件に合致したのが、自宅から車で1時間ほどの距離にある介護付き有料老人ホームでした。手厚い見守り体制が整っており、認知症の受け入れ実績も豊富とのこと。入居一時金100万円、月額費用は20万円ほどで予算内におさまりました。

 

「元気だった頃、父は『生まれ育った家みたいに海が見える場所で最期を迎えたい』と話していました。施設の中庭や部屋の窓から綺麗な海が見えるロケーションで、ここなら父も穏やかに過ごせるはずだと思ったんです」