定年後の生活で「孫の世話」に奔走するシニア世代は少なくありません。しかし、家族のサポートを優先するあまり、自分たち夫婦の時間を後回しに……。15年間「孫ファースト」を続けた夫婦の事例から、後悔のない老後を送るための計画性について考えていきます。
「何もできなかったな…」〈年金月25万円・75歳夫婦〉、15年間「孫ファースト」の末に気づいた「老後に失ったもの」 ※写真はイメージです/PIXTA

15年間、孫のために使った時間とお金

「俺たちの老後って、結局なんだったんだろうな」

 

そう妻・恵子さんの前で漏らす、斎藤徹さん(仮名・75歳)。東京近郊の築40年の戸建てに暮らしています。夫婦合わせた年金収入は月25万円ほど、手取りにすると月21万円ほど。月の支出は20万円程度に抑え、年金だけで生活できるライフスタイルを確立しています。

 

住宅ローンは60歳定年になる前に完済しており、計画的に進めてきた資産運用が功を奏し、老後資金は3,000万円ほど。先行き不透明感があるなかでも、経済的な不安は少ないほうでした。

 

そんな斎藤さん夫婦。長年続けてきた習慣があります。それは2人の孫育て。さかのぼること15年前、初孫の誕生とともに、車で15分ほどの街にマイホームを構えた長男夫婦。共働きで、何かあったときに頼れるからと、実家近くに戸建てを購入したのです。

 

初めての子育てで不安がっていた義娘を、斎藤さん夫婦は子育ての先輩としてサポートしました。そして、初孫誕生から1年後には、義娘も仕事復帰。仕事と子育ての両立をサポートしたのは、まぎれもなく斎藤さん夫婦でした。

 

朝、保育園に連れていくのは長男夫婦の役目。そして迎えにいくのは、斎藤さん夫婦の役目。19〜20時くらいに長男夫婦が帰宅するまで孫の面倒をみて、バトンタッチ。帰路につく――そんな生活がスタートしたのです。

 

「2年後には、もうひとり孫が誕生して……忙しさが倍になった。ただ子育てのころは、私たちも精いっぱいで、子どもの成長を感じる余裕はなかったけれど、2度目だと楽しむことができて。初めて歩いた瞬間を目撃したのは、親ではなく私たちですから(笑)」

 

そのような生活は、2人目の孫が小学校を卒業するまで、計15年間続きました。

 

「長男夫婦からも『仕事と両立させられたのは、お父さん、お母さんのおかげ』と、恐縮するくらい感謝してくれてね。こちらこそ、孫の成長を満喫できて、本当に楽しかったですよ。もちろん大変なこともたくさんありましたが」

 

斎藤さん夫婦と長男夫婦のように、車で15分ほどの「近居」を選択し、日常的に助け合う親子関係は珍しくありません。国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査(2022年)』によれば、別居している親のうち「近いほうの母親」との居住距離が「60分未満」である割合は72.1%にのぼり、その半数以上が「30分未満」の近距離に住んでいます。

 

さらに、こうした近居の有配偶子に対して親世代が「孫の世話」の手助けを行う割合は、子の性別が女性(娘)の場合で50.8〜61.3%、男性(息子)の場合でも25.6〜44.2%に達します。このように物理的な距離の近さは、親世代による継続的な育児サポートを可能にし、共働き世帯を支えるベースになっています。