子への金銭援助を断れず、自身の生活や老後が破綻の危機に瀕する高齢の親。「親なら当然」という責任感や情が裏目に出てしまうことも珍しくありません。ある親子のケースから、際限なき援助が招く深刻なリスクをみていきます。
「親なら当然だろ」〈小遣い月5万円〉を捻出し続けた〈年金月14万円〉72歳母、実家暮らしの48歳長男が放った一言に「もう、限界」 ※写真はイメージです/PIXTA

「親だから仕方ない」と続けた援助

「毎月5万円を渡すのが、いつの間にか当たり前になっていました」

 

そう話すのは、東京都内の築35年の戸建て住宅で暮らす佐々木美智子さん(72歳・仮名)。美智子さんの収入は、月額約14万円、手取りにすると月13万円ほどの年金のみ。決して余裕のある家計ではありません。


住まいは築年数が経過した一戸建て。8年前に夫を亡くしてからは、ここに48歳の長男・佐々木健一さん(仮名)と2人で暮らしています。

 

健一さんは大学卒業後、正社員として働いた時期もありましたが、転職を繰り返した末、現在は非正規雇用です。収入は月によって変動しますが、手取りは約10万円前後。さかのぼること15年前。最初に会社を辞めたタイミングで実家に戻ってきました。

 

「息子が勤めていたのは、昭和の気質が残っている会社だったらしく。就職の大変な時期に苦労して入った会社だったので、頑張ってきたみたいですが、『もう無理』といって戻ってきたんです」

 

当時の健一さんは、精神的に疲弊しており、「まずはゆっくり休めばいい」と思っていたといいます。しかし、その後は正社員になろうとはしなかったとか。

 

「もう、“組織”にはうんざりだと……まあ、分からなくはないのですが」

 

正社員ではないとはいえ、前出の通り、多少波はあるにせよ、月10万円前後の収入を得ている健一さん。美智子さんは、「家にいるなら生活費を入れてほしい」と伝えたこともありました。しかし健一さんは、「今の給料じゃ無理だよ。親なんだから、それくらい助けるのが普通じゃない?」と返したといいます。

 

長年うまくいかなかった息子の生活を、美智子さんは見捨てることもできませんでした。そして「お金が足りない、1万円貸してくれないかな」という一言をきっかけに、毎月小遣いをあげるように。1万円が2万円に、2万円が3万円に増えていき、長らく「月5万円」が習慣化していたのです。

 

月5万円の援助をすると、手元に残るのは約8万円。そこから食費や光熱費、通信費、日用品、通院費を支払う必要があります。月1回の通院費は約6,000円。薬代は月3,000円ほど。食費はできるだけ抑え、スーパーでは見切り品を選ぶことが増えました。それで年金はすべてなくなり、預貯金を取り崩しながら生活をしています。

 

総務省の『家計調査 家計収支編(2025年)』によると、65歳以上の単身女性世帯における1カ月の平均消費支出は15万2,996円。美智子さんが長男に5万円を援助した後に手元に残る「約8万円」という生活費は、この平均的な支出の半分強にすぎません。

 

生きるために最低限不可欠な食費、光熱水道費、医療費の平均を合算するだけでも約6.4万円に達し、手元の8万円では日用品の購入や住宅修繕、急な通院費の上振れに到底耐えられません。親としての愛情から続ける援助が、自身の生活を破綻の危機へ追い詰めている実態がうかがえます。

 

「息子のお金がなくなるのが心配でした。でも、自分のお金もなくなっていきました」