子どもに心配をかけたくない思いから、老後資金や住まいの悩みを一人で抱え込んでしまう高齢親は少なくありません。「大丈夫」という言葉を鵜呑みにしていると、知らぬ間に取り返しのつかない事態に……ある親子のケースから、高齢世帯が陥りやすい住まいの落とし穴について見ていきます。
「私は大丈夫」と76歳母は笑っていたが…1年ぶりの帰省で明るみに出た「実家消失危機」に50歳一人息子が絶句 ※写真はイメージです/PIXTA

管理会社「払えないなら退去してください」

健司さんはすぐに管理会社へ電話をかけました。

 

「年金生活なのに、この値上げは無理です」

 

すると担当者は事務的に答えました。

 

「契約書にも改定条項があります。難しい場合は退去をご検討ください」

「76歳ですよ?」

「契約上は問題ありません」

 

その一言で電話は終わりました。契約書を見ると、確かに一定期間ごとに賃料を見直す条項が記載されていました。洋子さんは契約時、その意味を十分理解しておらず、「住み続けられると思っていたの」と繰り返すだけでした。

 

国土交通省も、高齢者の住まいの確保や住宅取引では契約内容を十分確認することの重要性を周知しています。しかし、住み慣れた家に住み続けられるという安心感だけが先に立ち、将来の家賃改定や契約終了の可能性まで十分理解しないまま契約してしまうケースは珍しくありません。

 

健司さんは弁護士へ相談しました。契約内容を精査した結果、賃料改定の根拠や手続きについて交渉の余地があることが分かりました。最終的には家賃の値上げ幅は抑えられましたが、それでも家賃を払い続ける生活は変わりません。

 

「もっと早く相談してくれればよかったのに」という健司さんに対し、「家を失ったなんていえるわけないじゃない」と洋子さん。

 

国立社会保障・人口問題研究所『2022年生活と支え合いに関する調査』によると、金銭的理由で「不意の出費に備えた貯蓄がない」と回答した世帯は全体で14.7%、所得の低い層では23.1%に上ります。また、過去1年間に「家賃の滞納」を経験した世帯は民間賃貸で3.3%、公的賃貸では6.9%と、賃貸世帯の住宅費負担の重さが表れています。

 

このように、老後の資金や住まいを巡るリスクは決して他人事ではありません。「子どもに心配をかけたくない」という親の「大丈夫」という言葉を鵜呑みにせず、普段から将来の住まいや資金計画について親子でオープンに話し合っておくことが重要です。