「親孝行のつもり」で続けている帰省が、実は夫婦関係や家計を脅かす原因になっているかもしれません。お盆や正月の高額な費用や、親族との付き合い方にモヤモヤを抱える方は多いはずです。ある夫婦の衝突事例を通じ、現代に求められる親族との適切な距離感について考えます。
「お母さんの言う通りにしたのに…」年収700万円・38歳夫、実家帰省後に妻「離婚する!」の大騒動のワケ ※写真はイメージです/PIXTA

孫の顔を見せるのが「親孝行」だから

「今年のお盆も帰ってくるんでしょ? 孫の顔を見せるのが一番の親孝行なんだから」

 

会社員の山田健太さん(38歳・仮名)は、毎年この時期になると母親から電話を受けます。母親は悪気があるわけではありません。孫に会いたい。その気持ちを素直に口にしているだけです。健太さんもまた、「母さんも年を取ったし、できるだけ帰ろう」と考えていました。

 

妻の由紀さん(36歳・仮名)、小学3年生と保育園児の子ども2人を連れ、東京から九州の実家まで飛行機で帰省します。

 

家族4人分の航空券は、お盆期間だと往復で約22万円。レンタカー代が3万円。実家への手土産や親戚への贈答品で約3万円。現地での外食やレジャーなどを含めると、1回の帰省費用は30万円近くになります。

 

健太さんの年収は700万円。手取りは月約43万円です。住宅ローンは月11万円。教育費は習い事も含め月6万円……食費は物価高で以前より2万円ほど増え、毎月の貯蓄(黒字)は5万円ほどしかできません。

 

由紀さんは以前から、「帰省は年1回で十分じゃない?」と提案していました。

 

しかし健太さんは首を縦に振りません。「母さんが楽しみにしてるから」という一言で話は終わっていました。一方の義実家(由紀さんの実家)は車で30分程度のところにあり、1か月〜2か月に1度は家族で遊びに行きます。近くにあるから当然ですが、できるだけ実家と義実家で差をつけたくない――お盆と正月、年2回の帰省にこだわる理由は、そのような思いが根底にあったのです。

 

実家へ着くと、母親は孫たちを歓迎してくれます。一方で、由紀さんには何気ない一言が続きます。家事を手伝っても、「ご飯、少し薄味ね」とチクリ。「子どもはもっと外で遊ばせないと」と子育てにもチクリ、「健太は昔から唐揚げが好きだったのよ」とまるでマウントをとるかのような夫の昔話――。すべては悪気のないひ言かもしれませんが、それが3日、4日と続くと、由紀さんの表情は少しずつ曇っていきました。

 

さらに今年は物価高でした。スーパーで食材を買い足すたび、「こんなに高くなったのね」という会話が何度も出ます。健太さんは実家の負担を減らそうと、滞在中の食費も多めに負担しました。帰省だけで30万円以上の出費。子育て世帯には大きな負担――それでも「親孝行だから仕方がない」と健太さんは考えていました。

 

総務省の『家計調査(家計収支編)2025年』によると、二人以上の勤労者世帯(給与生活者・年間収入700万〜750万円階級)における1か月の平均可処分所得は40万6,975円、消費支出は26万3,333円(うち食費は64,514円)となっています。

 

これに対し、山田さんの世帯では、住宅ローンや教育費などの重い固定費や物価高の影響により、毎月の生活費が約38万円に達しています。日々の生活を送るだけで手一杯な家計にとって、1回あたり30万円に上る帰省費用は非常に重い負担です。