「クリニック開業規制」がもたらす光と影…変わりゆく医療環境のなかで医師が検討したい「2つの戦略」【弁護士が解説】

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「クリニック開業規制」がもたらす光と影…変わりゆく医療環境のなかで医師が検討したい「2つの戦略」【弁護士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

2026年4月、「クリニック開業規制(外来医師偏在対策)」が本格的にスタートしました。この規制の狙いは「競争の抑制」と「地域医療の適正化」ですが、注目すべきは都市部などの「外来医師過多区域」において、新規開業への一定のハードル(ハード・ソフト面での地域医療への貢献要件など)が設けられた点です。現時点ではまだ施行して間もなく、具体的な処分例等はないものの、すでに業界では大きな話題になっています。本記事では、医療機関やクリニックの法務サポートを行ってきた弁護士の視点から、この規制が今後のクリニック開業戦略や開業を検討する医師の選択にどのような影響をもたらすのか、具体的な仮説を交えて解説します。

「都市部」のクリニック開業事情はどう変わるのか

今回の開業規制は強力な参入障壁となるため、すでに開業しているクリニックや、厳しい要件をクリアして新規開業したクリニックにとっては、経営の安定につながるでしょう。

 

また、新規開業が難しくなることで、将来的にも閉院ではなく「事業承継(M&A)」という形でクリニックを引き継ぐ動きがこれまで以上に活発になることが想定されます。

 

ただし、今後、既存クリニックへの規制がかからないともいえず、引き続き制度の動向を注視していく必要があるといえます。

 

一方で、開業規制で最も懸念されるのが、「医療モール」の建設計画が減少する可能性です。医療モールとは、内科や整形外科、耳鼻科など複数の診療科のクリニックが1つの建物内に集まっている施設のこと。複数のテナントが入ることでクリニック側と不動産オーナーの双方に相乗効果が生まれ、事業として成り立っています。

 

しかし、規制によって特定の専門クリニックの新規開業が敬遠されることになれば、不動産オーナーやデベロッパーはテナントが埋まらない空室リスクを恐れます。

 

その結果、好立地での医療モール開発自体が見送られ、新規開業を目指す医師が「いい物件」や「魅力的なプロジェクト」に出会える確率も大きく下がる可能性があります。

「地方・郊外」でのクリニック開業に勝機はあるのか

都市部とは対照的に、地方や郊外での開業は、「集患競争やWebマーケティングに疲弊したくない」「目の前の患者とじっくり向き合いたい」という医師にとっては絶好のチャンスです。

 

地方開業の場合、競合が少ないことから地域の確実な医療ニーズを独占しやすく、また自治体からの補助金や優遇措置も期待できます。したがって、マーケティングに過度なコストをかけず堅実な経営を目指す方には強力な“追い風”といえます。

 

前々から「地方や過疎地で医療に携わりたい」という思いがありながら、経営面の不安から都市部で働いていた医師にとっては、今回の規制はその一歩を後押しする機会となり、志を持って地方開業に踏み出しやすくなるでしょう。

 

とはいえ、地方や郊外なら簡単に成功するかというと、そう簡単な話でもありません。競合が少ないエリアでの開業には、固有の経営リスクが潜んでいます。

 

最大の壁は、スタッフの採用難です。たとえ医師が現地に赴いても、看護師や医療事務が確保できなければクリニックは運営できません。

 

また、地方では人口減少による患者減少リスクがあるほか、一度自前でクリニックを建ててしまうと、将来閉院・移転する際に買い手や借り手がつかず、不動産が負債化するという地方特有の不動産リスクもはらんでいます。

開業を検討している医師が検討したい「2つの選択肢」

これらの仮説を踏まえ、今後開業を検討する医師はどのような戦略を取るべきでしょうか。大きく分けて、次の2つの選択肢が考えられます。

 

【選択肢A】都市部で「事業承継(M&A)」を経た開業

都市部での開業にこだわる場合、最も合理的な戦略となるのが「事業承継(M&A)」です。既存の患者やスタッフ、権利関係ごと引き継ぐことができるため、規制という高い壁を安全に迂回することができます。

 

今後の動向に注視する必要はあるものの、好立地の新規物件が減っていくなか、「居抜き・承継」はいい立地を手に入れる手段として検討に値します。

 

ただし、弁護士の立場からすると、M&Aには深刻な落とし穴もあります。M&Aの場合、前院長時代の「未払い残業代」や「ハラスメント気質のある問題社員」などの労務トラブル、あるいは「クリニック側に不利な条件のままの不動産賃貸借契約」などの負債やリスクまで引き継いでしまうおそれがあるためです。

 

そのため、M&Aを行う際には、必ず事前に弁護士等の専門家による法務デューデリジェンスを実施することが不可欠です。

 

【選択肢B】地方・郊外での「新規開業(地域創生型)」

もう一つの選択肢が、都市部での激しい競争やM&Aに伴う引き継ぎリスクを避け、地方・郊外に腰を据える戦略です。

 

自治体の支援制度をフル活用しつつ、地場の不動産オーナーと協力して手堅い基盤を築きます。ご自身の目指す医療が「地域への長期的な貢献」である場合に適した選択肢といえます。

 

開業規制は、医師にとってプラス面とマイナス面の両方があります。今回の規制が自分の開業計画にどのような影響を及ぼすのか、その内容とメリット・デメリットをまず正確に把握しておくことが重要です。

開業規制を機に見直したい「医師の働き方」

「開業規制=開業が難しくなる」と、必ずしもネガティブに捉える必要はありません。

 

この規制をきっかけに「自分がどのような医療を提供し、どのような働き方をしたいか」というビジョンを改めて明確にすることが重要です。

 

そのビジョンに沿って「都市部での承継」か「郊外での新規開業」かを選択し、それぞれの戦略に潜む不動産リスクや労務トラブルに対して、早期に弁護士などの専門家を交えて対策を練ることが、これからの時代における「失敗しない開業」のカギとなるでしょう。

 

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著者:寺田 健郎

弁護士法人山村法律事務所/弁護士

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