銀行「喜んでお貸ししますよ」…診療圏の調査結果も良好、満を持してクリニック開業に踏み切った40代・内科院長の“思わぬ誤算”【開業医が警告】

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銀行「喜んでお貸ししますよ」…診療圏の調査結果も良好、満を持してクリニック開業に踏み切った40代・内科院長の“思わぬ誤算”【開業医が警告】
(※画像はイメージです/PIXTA)

医師という職種は、一般的に銀行からの融資を受けやすいといわれます。しかし、その理由は決して「将来性を評価されている」からではありません。銀行からの甘い言葉を真に受け、理想のクリニックをつくるために開業資金を膨らませると、開業したあとで“予想外”の事態に直面することも……。40代内科医の事例をもとに、医師が融資を受けやすい本当の理由と、開業医が陥りやすい3つの罠、その対策をみていきましょう。

こんなはずじゃなかった…とある開業医の後悔

先生なら、これくらい(の融資額)はまったく問題ありません。むしろ、これからの地域医療を担う旗艦クリニックとして、妥当な投資ではないでしょうか

 

銀行の融資担当者の威勢のいい言葉に、都内の大学病院を退職したばかりのA氏(45歳・内科医)は胸を撫で下ろしました。

 

長年、呼吸器内科のエキスパートとして研鑽を積み、専門医資格も複数保持。満を持しての独立です。

 

担当した医療コンサルティング会社による診療圏調査の結果は「極めて良好」。半径1km以内の競合他院の数は少なく、推定される1日あたりの外来患者数は60人を超えていました。

 

これならいける

――A氏はそう確信していたといいます。

 

しかし、開業準備が進むにつれ、見積もりは当初の想定を大幅に超えていきました。 昨今の建築資材の高騰により、内装工事費は坪単価で以前の約1.5倍に。

 

さらに、電子カルテや最新のCT、高性能な超音波診断装置……。「内科医として最適な診療を」と考え、妥協せずに揃えた結果、開業資金は当初の8,000万円から1億3,000万円まで膨れ上がったそうです。

 

それでも、銀行は「喜んで」と追加融資を承諾してくれました。給与振込口座として長年付き合いのあったメインバンクの“お墨付き”が、A氏の冷静な判断を狂わせたのかもしれません。

「歯車」が狂い始めた開業3ヵ月目

開業当初こそ「新しくて綺麗なクリニック」として注目を集めました。しかし、現実は診療圏調査ほど甘くはありません。

 

60人予想だった1日の患者数は30人前後で停滞。一方、毎月の返済額は容赦なく口座から引き落とされます。

 

このままでは資金繰りが行き詰まる

 

焦ったA氏は、利益率を上げるために「回転率」「診療単価アップ」をスタッフに命じました。1人あたりの診察時間を削り、採血などの検査を強要し、項目を不必要に増やし、業務効率化のためにオペレーションを詰め込みました。

 

さらに追い打ちをかけたのが、「採用コスト」です。看護師と受付スタッフを揃えるため人材紹介会社を利用しましたが、提示された手数料は年収の30%。3名採用するだけで数百万円が消えました。

 

もっと動け、もっと効率を上げろ、もっと儲けろ

 

A氏はいつしか、医療よりも生産性を重視するようになりました。また院長の焦燥感は、スタッフへのプレッシャーへと形を変えます。

 

そんな余裕のない院長の姿に、最初に音を上げたのは看護師・医療事務スタッフでした。

 

患者さんの話を全然聞かない診療には関わりたくない

儲け主義で患者さんから高いお金をいただくのは申し訳ない

 

こうした理由で主力スタッフが退職。それをきっかけに、スタッフの離職が相次ぎました。

 

地域医療に貢献したくて開業したはずなのに、毎日通帳の残高を見て、スタッフに怒鳴っている。なんでこんなことに……

 

A氏は一人、深夜の診察室で頭を抱える日々。最終的には診療を縮小せざるを得なくなったのでした。

開業医が陥りやすい「3つの罠」

今回紹介したA氏の事例は、決して特殊なものではありません。クリニック開業の世界では、多くの医師が同じような「罠」に陥りやすいといえます。

 

具体的には次の3つに気をつける必要があるでしょう。

 

1.診療圏調査を「売上保証」と勘違いする

診療圏調査の結果は、あくまで「ポテンシャル(可能性)」を示す数値に過ぎません。そこには競合クリニックの「医師の人柄」や「スタッフのホスピタリティ」といったソフト面は加味されていないのです。

 

A氏の最大の誤算は、良好な調査結果を盾に、許容範囲を超える過大な固定費(負債)を背負ってしまったことにあります。

 

2.開業資金の「膨張」への備えを怠る

昨今の物価高騰は著しく、内装費や医療機器だけでなく、医薬品や検査材料費といったランニングコストも右肩上がりです。内装工事にいたっては、職人の人件費や材料費高騰などで1坪あたり100万円を超えるケースもあります。

 

そこで、クリニックの内装工事については、最初から100点の完成度を目指さないことが重要です。将来的に拡張可能な設計にし、まずは「ミニマム」でスタートする勇気を持ちましょう。

 

また医療機器については、専門性を出したい気持ちはわかりますが、最初からすべてを新品で揃える必要はありません。リースや中古品の活用を検討し、「本当にこの検査は初年度から必要か」というシビアな視点が不可欠です。

 

3.採用コストを軽視する

スタッフ採用において、紹介会社に支払う手数料は、開業初期のクリニックにとって大きな負担となります。

 

自院のHPやSNS、地域の求人媒体を活用し、時間をかけて“ファン”になってくれる人材を直接採用することが理想でしょう。

 

また、最大のコスト削減策は「一度採用したスタッフが辞めない環境づくりや配慮」です。筆者のクリニックでもこの点を重視しています。

経営とは「引き算」の勇気である

銀行が「貸してくれる」のは、あなたの将来性を見込んでのことではなく、医師免許という強力な担保があるからです。「借りられる額」と「返せる額」はまったく別物であることを肝に銘じなければなりません。

 

特に40代での開業は、住宅ローンや子どもの教育費など、医師個人のライフステージにおける支出も重なる時期です。だからこそ、経営には「攻め」だけでなく、冷静な「守り」の視点が求められます。

 

開業資金を膨らませない。見栄を張らない。そして、なによりも「患者さんと向き合う余裕」を失わない程度の負債にとどめることが、結果としてスタッフを守り、経営を安定させる唯一の道です。

 

銀行の「喜んでお貸しします」という言葉・姿勢を鵜呑みにせず、まずは自分の足元を見つめ直す。これから開業を目指す先生方には、ぜひこの“思わぬ誤算”を他山の石としていただきたいと思います。

 

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著者:武井 智昭
高座渋谷つばさクリニック 院長
一般社団法人日本医療介護人材育成支援機構 理事

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