夜間も休日勤務もしない…「ゆるキャリ志向」の若手医師が増加しているワケ【現役医師が解説】

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夜間も休日勤務もしない…「ゆるキャリ志向」の若手医師が増加しているワケ【現役医師が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

新卒世代には安定した企業が選ばれる傾向が強まっていますが、これは民間企業に限った話ではありません。夜勤や当直などといった過酷な働き方からストレスの大きい職種である医療業界でも、近年は「働きやすさ」を重視する流れが広がっています。こうした背景のなかで若手医師の間で増えているのが、かつての「バリキャリ志向」とは対照的な「ゆるキャリ志向」です。本記事では現役医師が、このゆるキャリ志向の医師が増加している理由と今後の展望について解説します。

「バリキャリ」から「ゆるキャリ」へ…変化する医師のキャリア観

かつて、医師の王道キャリアといえば、大学病院や基幹病院で寝食を惜しまず働き、症例数を積み上げ、専門医や学位を取得し、ゆくゆくは教授職や基幹病院の部長・院長を目指すというものでした。夜間の呼び出しや休日勤務といった過酷な時間外労働も“修練の一部”といった空気が、長く医療界にはありました。

 

しかし近年は、その前提が崩れています。医療現場では夜間や休日の勤務は極力避けたい」、「仕事は大事だが、自分の生活や家族との時間も守りたい」、「医業は適当に、副業はしっかりなどと考える、いわゆる「ゆるキャリ志向」の医師が確実に増えています。

 

これは単なる甘えや気分の問題ではなく、過酷な働き方をよしとしない、価値観の変化といえます。

「ゆるキャリ志向」の医師が増えている背景

この変化の背景として大きいのは、従来の勤務環境に対する率直な反発です。病院勤務は社会的意義が大きい一方で、労働負荷の重さに比べて「報われにくい」と感じる医師が少なくありません。

 

多くの若手医師は、当直明けでもそのまま通常業務を続け、外来・病棟・書類業務を抱え、疲弊しきっていく先輩たちを見て育ってきました。筆者自身も、36時間連続勤務が当然とされる環境で育ってきた一人です。

 

そのため、「あそこまで消耗する働き方は異常で、自分は選びたくない」と考えるのは、ある意味で自然な反応です。

 

また、制度面・経済面の変化も追い風になっています。実際、厚生労働省の医師の働き方改革により労働時間の適正化が進められ、連続勤務や勤務間インターバル、罰則規定のある時間外労働の上限も設けられました。とはいえ、急性期病院を筆頭に、医療現場では人手不足や業務偏在がすぐに解消されるわけではありません。

 

加えて、若い世代ほど高い負荷や拘束時間の長さを美徳とはみなさず、仕事の総量よりも、裁量・再現性・生活の安定など「コストパフォーマンス」を重視する傾向があります。

 

結果として、病院で無理を重ねるより、勤務日数や勤務時間をある程度コントロールできる環境へ移る流れが強まっています。

「ゆるキャリ」医師はどこで働いているのか…当直や残業の少ない労働環境へのシフト

では、「ゆるキャリ」を選んだ医師はどこで働いているのでしょうか。代表的な受け皿は、美容皮膚科、AGA、自由診療中心のクリニック、そして一般内科などの無床診療所、健康診断のアルバイトなどです。

 

これらの領域では、救急対応や入院管理、夜間を含めた呼び出しがほぼなく、求められる診療スキルも比較的低いため、勤務の見通しが立てやすいという特徴があります。

 

求人条件も「週3〜4日勤務可」「当直なし」「残業ほぼなし」「時短勤務相談可」「長期休暇取得可」といったものが増えており、病院勤務に比べて生活設計がしやすい環境が整っています。

 

加えて、近年は民間企業による「医師の開業支援ビジネス」も急速に進化しています。物件選びから資金調達、内装、電子カルテの導入、スタッフ採用、広告運用まで、開業準備をパッケージで支援するサービスです。

 

もちろん開業にはリスクもありますが、オンライン診療やミニマム開業、訪問診療など、以前より参入ハードルが下がったことはたしかです。

 

特に、自分の専門性を一定程度保ちながら、勤務時間や患者層を調整したい医師にとっては、かなり現実的な選択肢になっています。

働きやすさの裏にある、専門性やスキルの固定化リスク

自分のペースを保てる「ゆるキャリ」には、心身を壊しにくく、家庭や育児・副業・学び直しなどに時間を振り向けやすいなど、たしかに大きな魅力があります。

 

一方で、医師としての成長機会や雇用の安定性という観点では、注意すべき点もあります。短期的な満足感は高くても、中長期の医師人生においてどのようなキャリアになるのかは、冷静に考える必要があります。

 

主なメリットとデメリットを整理すると、以下のようになります。

 

[図表]「ゆるキャリ」のメリット・デメリット(出所:筆者作成)
[図表]「ゆるキャリ」のメリット・デメリット(出所:筆者作成)

 

特に見落とされがちなのは、楽に働ける場所が、ずっと高条件で存在し続けるとは限らないという点です。

 

自由診療や軽症外来中心の現場は、一時的には快適でも、診療内容が固定化しやすく、数年単位で振り返ったときに自分のキャリアや武器が増えていない、という事態が起こり得ます。

 

逆にいえば、ゆるく働くこと自体が問題なのではなく、その間にも医療知識のアップデート、専門性や対人コミュニケーション能力、経済感覚などを磨いているかどうかが、将来的な待遇の分岐点になります。

人口減少と医療政策の変化がもたらす将来的な影響

一見すると魅力的な「ゆるキャリ志向」ですが、この流れが一般化するかというと、先行きは不透明です。最大の理由は、日本全体の人口減少と少子高齢化です。

 

特に小児科をはじめ一部の領域では、対象人口の減少がすでに経営や雇用に影響し始めています。

 

都市部であっても365日24時間体制を強いられるなど競争の激化は強まり、地方では患者数そのものの縮小は避けられません。「いまたまたま条件がいい」だけでは、将来の医師人生の安定は保証しにくい時代になりました。

 

さらに、国の医療政策も「地域で必要とされる医療機能を明確化する」方向へ進んでいます。令和8年度診療報酬改定の動向を見ても、限られた財源のなかで、医療資源をどこに重点配分するかという視点がより強まっています。

 

また、かかりつけ医機能報告制度の整備により、地域でなにを担う医療機関なのかが以前より問われるようになりました。つまり、ただ勤務が軽い、ただ自由度が高い、プライベートを優先できるというだけでは評価されなくなります。

 

患者や地域に自分が持つポータブルスキル・知識が地域住民にどのような価値を提供でき医療機関に貢献できるかが、これまで以上に重要になっていくでしょう。

働き方の選択に関わらず、中長期的な視点で自身の価値を高める方法

もちろん、「自分の生活や心身の健康を大切にしたい」という考え方そのものは、極めて健全です。医師が倒れてしまっては、患者にも社会にもいい影響はありません。ただし今後は、医療費抑制、人口構造の変化、診療報酬の見直し、競争環境の変化が同時に進みます。

 

そのなかで、負荷が少ない働き方だけを求め、専門性の更新や価値提供を後回しにしてしまうと、診療報酬改訂や制度変更など環境が変わったときに立場が弱くなりやすいのも事実です。

 

これからの医師に必要なのは、バリバリ働くか、ゆるく働くかという2択ではなく、どの働き方を選んでも自分の価値を積み上げられるかどうか、キャリアを中長期的に俯瞰することが重要です。

 

たとえば、特定領域での専門性、患者満足度を高める接遇力、在宅や地域連携への理解、経営数字を読む力、ITや医療DXへの対応力などは、勤務先が変わっても残る資産になります。

 

ゆるく働くのであれば、なおさら「その分、なにを磨くのか」を意識する必要があります。時代の変化を受け身で眺めるのではなく、自分の強みを掛け合わせながら持続可能なキャリアを設計することが、これからの医師に求められているのではないでしょうか。

 

 

 

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著者:武井 智昭

高座渋谷つばさクリニック院長

一般社団法人日本医療介護人材育成支援機構理事

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