「老後の安心」と信じた都心マンションが、維持費高騰で家計を圧迫する――。今、高齢期の住まいを巡る環境は激変しています。ある元会社員の決断をきっかけに、マンションの“老い”や生活のダウンサイジングの重要性を考えます。
何かの間違いでは…「年金月15万円」73歳元サラリーマン。〈都心マンション〉を手放し、失意のなかたどり着いた、〈築50年公営団地〉での想定外の日々 (※写真はイメージです/PIXTA)

見栄を捨てた先にあった安心

その後、夫婦が選んだのは、東京都心から電車で1時間ほどの街、最寄り駅から徒歩10分ほどにある築50年の公営団地でした。家賃は月5万5,000円。広さは約45平方メートル。美智子さんの提案によるものでした。以前のマンションと比べると面積は大きく減り、遠藤さんは正直複雑な気持ちを抱いたといいます。

 

「正直、近所に知られたくないと思いました。落ちぶれたと思われたくなくて」

 

長年、「持ち家こそ老後の安心」と考えてきた遠藤さんにとって、団地暮らしは簡単に受け入れられるものではありませんでした。

 

しかし、生活を始めると変化が表れます。まず、固定費が下がりました。管理費や修繕積立金の負担はなくなりましたが、住居費は月5万5,000円に。一方で車は売却したので、以前かかっていた駐車場代や維持費、保険料合わせて月3万円以上の支出も減りました。現在の生活費は月17万円前後。年金収入手取り23万円から毎月5万円程度を残せるようになりました。

 

総務省『家計調査(家計収支編)2025』によると、65歳以上の無職夫婦世帯における1カ月の平均消費支出は26万3,979円で、可処分所得(22万1,544円)に対して毎月4万2,434円の赤字が生じています。遠藤さんのように「持ち家」や「車」を手放して生活をダウンサイジングし、それにより平均を大きく下回る月17万円の支出に抑え、年金だけでも黒字家計を維持できるようにする。まさに家計の見直しの好例ともいえるでしょう。

 

団地暮らしを始めて半年。遠藤さんの生活は以前より小さくなりました。しかし、不便になった気はしません。スーパーまで徒歩5分。病院も徒歩圏内。自治体の手続きや銀行にも歩いていけます。

 

以前は都心とはいえ、車で外出する必要がありました。今は歩く機会が増え、以前よりも健康になった――気がします。団地には同年代の住民も多く、顔を合わせる機会があります。

 

「前のマンションでは住民の入れ替えもあって、最近では隣の人の顔も知らなかった。でも、ここでは挨拶する人がいる。それだけで安心します」

 

一方で、老後の住まいに不安がなくなったわけではありません。築年数が古い住宅では建物の維持問題があります。年金額が大きく増える見込みもありません。物価上昇が続けば、家計への圧迫も避けられません。それでも遠藤さんは、現在の選択を後悔していないといいます。

 

「現役のころは、住まいも含めて“見栄”が多少なりともあった。しかしこの年になると、維持していくのが難しくなる。今は身の丈に合っていて、すごく楽です」