「老後の安心」と信じた都心マンションが、維持費高騰で家計を圧迫する――。今、高齢期の住まいを巡る環境は激変しています。ある元会社員の決断をきっかけに、マンションの“老い”や生活のダウンサイジングの重要性を考えます。
何かの間違いでは…「年金月15万円」73歳元サラリーマン。〈都心マンション〉を手放し、失意のなかたどり着いた、〈築50年公営団地〉での想定外の日々 (※写真はイメージです/PIXTA)

「資産になるはずのマンション」が負担になった

「まさか、自分が団地に住むことになるとは思っていませんでした」

 

元会社員の遠藤誠一さん(73歳・仮名)。遠藤さんは、東京都内の企業に約40年間勤務しました。定年退職後も再雇用で働き、70歳まで会社勤めを続けました。

 

遠藤さんがマンションを購入したのは、40年近く前のこと。当時は「都心のマンションを持っていれば、老後の安心材料になる」と考えていました。

 

購入時、管理費と修繕積立金を合わせても月1万5,000円程度。現役時代の収入から見れば、大きな負担ではありませんでした。

 

しかし、定年後に状況は変わります。築年数が進むにつれ、建物の修繕や設備更新の費用が必要になり、修繕積立金は何度も見直されました。昨今の物価高もあり、管理費と合わせて月4万8,000円。年金生活者にとって、この固定費は決して小さくありません。ここに固定資産税も年間約18万円――。

 

一方、遠藤さん夫婦の収入は、妻の年金と合わせて月27万円、手取りにすると23万円ほど。それに対して、支出は月21万円ほどで、多少余裕がありました。しかし、突発的な支出があるとマイナスになり、貯蓄を取り崩さなければならず、1年でみると収支は赤字になっていたのです。

 

「少しずつでも貯蓄が減っていくのは、この物価高の中では特にストレスでした」

 

国土交通省『令和8年度首都圏整備に関する年次報告(首都圏白書)』によると、現在のマンション市場では、建物の老朽化と居住者の高齢化による「2つの老い」が深刻な課題として指摘されています。建物の修繕や建て替えには住民間の合意が必要ですが、高齢化に伴い集会決議は困難を極め、首都圏でのマンション建替事業の実績は令和7(2025)年3月末時点でわずか111件にとどまっています。老朽化に伴う維持費の上昇に対し、多くの高齢オーナーが不安を抱えているのが現状です。

 

所有している住宅を維持するための費用を、年金収入から払い続けられるかどうか――。転機になったのは、妻の美智子さん(70歳・仮名)の一言でした。

 

「この家、本当に最後まで必要なの?」

 

遠藤さんは当初、反対しました。

 

「ここは俺たちが働いて買った家だ。簡単に手放せない」

 

しかし、生活を見直す中で現実が見えてきました。夫婦2人には、3LDK・約75平方メートルのマンションは広すぎました。使っていない部屋もあったのです。駅近という利便性はありましたが、建物の老朽化は進み、将来的な大規模修繕への不安もありました。

 

「資産だと思っていたものが、いつの間にか重しになっていたんです」

 

売却を決めた時、マンションは約4,800万円で売れました。築40年のマンションです。「こんなに高く売れるんだ……」と、昨今の不動産価格の高騰を実感したといいます。