(※写真はイメージです/PIXTA)
憧れの軽井沢ライフが始まったが…
60歳で会社を退職した山本達也さん(60歳・仮名)は、長年勤めた都内のメーカーを離れました。妻の美智子さん(60歳・仮名)と結婚して35年。子育ても終わり、長女と長男はそれぞれ都内で家庭を持っています。
夫婦が老後を過ごす場所として考えていたのは、長野県・軽井沢。家族旅行で何度も訪れていた、思い出の場所。「いつかここで暮らしたいね」と夫婦で話をしていました。何かと忙しい都会を離れ、自然の近くで時間に追われない生活を送る――そう考えたのです。
購入したのは築20年の中古住宅でした。価格は約1,500万円。さらに断熱工事や水回りの改修、暖炉の設置などに約500万円をかけました。老後資金として預貯金が3,800万円。別途、退職金が2,200万円ありました。退職金のほぼすべてを住まいにつぎ込みましたが、不安はありませんでした。
軽井沢での暮らしは、夫婦が想像していた以上に快適でした。朝は散歩。近所の店で買い物。庭の手入れ。
冬の寒さも、最初は新鮮でした。美智子さんは言います。
「東京にいた頃は、時間に追われていました。でも、ここでは自分たちのペースで生活できる。それが一番よかったです」
内閣府『高齢社会に関する意識調査』によると、大都市や中都市から小都市・町村など、規模の小さな都市への住み替えを希望する層では、住み替えの理由として「自然豊かな環境で暮らしたいと思ったから」が37.7%でトップとなっています。また、「趣味を充実させたいと思ったから」も13.0%と高い割合を占めています。山本さん夫婦のように、定年退職を機に都会の喧騒から離れ、自分のペースで自然を感じながらセカンドライフを充実させるための地方移住は、シニア世代の理想的な選択肢の1つであることがデータからも裏付けられています。
移住から2年。夫婦は「ここで最後まで暮らす」と本気で考えていました。しかし、その頃から家族の状況が変わり始めます。
「お母さん、今日だけお願い」
きっかけは長女からの電話でした。移住2年後、長女に第1子が誕生します。長女夫婦はともに会社員。育児休暇が終わると、2人とも仕事へ戻る予定でした。ある夜、美智子さんのスマートフォンが鳴ります。
「お母さん、ごめん。XX(孫の名前)が熱を出しちゃって……今日は会社、休めなくて」
軽井沢から東京までは新幹線で約1時間。美智子さんは迷わず向かいました。このような調子で東京に向かうことが月に1度。2〜3日泊まって帰るということが続きました。
しかし、子どもが成長するにつれ、別の問題も増えていきます。保育園からの急な呼び出し、夏休み、学校行事――。長女だけではありませんでした。長男にも子どもが生まれます。さらに2人目、3人目。気付けば孫は5人になっていました。
東京と軽井沢、長女夫婦も長男夫婦も、親に甘えているつもりはありませんでした。毎回、「無理なら断って」と言います。しかし、義理の息子や娘の実家は、それぞれ北海道と関西にあり、何かあった際にまず相談するのは父母だったのです。
こうして美智子さんが東京へ行く頻度は、次第に増えていきます。同じタイミングで頼まれて、達也さんまで東京に行くこともあります。月の半分以上を東京で過ごすこともありました。