(※写真はイメージです/PIXTA)
近くに住みたい…長男夫婦の申し出を快諾。援助も…
「家を買うなら、近くに住んでくれたほうが安心だと思ったんです」
神奈川県内で暮らす佐伯信夫さん(68歳・仮名)。妻の美和さん(67歳・仮名)との二人暮らしです。夫婦の年金収入は月28万円。退職金や長年の貯蓄を合わせた金融資産は約3,200万円あります。自宅の住宅ローンはすでに完済していました。さらに、老後の暮らしを見据えてバリアフリーリフォームも済ませています。段差をなくし、浴室やトイレも使いやすく改修しました。住まいに関する大きな不安はありませんでした。
毎月の生活費は約22万円。年金収入だけで生活費を賄うことができ、余った分は医療費や将来の修繕費として貯蓄に回していました。
老後の生活設計は、完璧に近いものだったそうです。そんななか、長男夫婦から相談がありました。
「実家の近くで家を建てたい」
長男夫婦は共働きで、子どもが生まれた後も仕事を続ける予定でした。佐伯さん夫妻は迷いませんでした。住宅取得資金として500万円を援助することにしたのです。
「近くにいれば、孫の成長も近くで見られる。何かあったときには、お互い助け合えると思いました」
新居は、佐伯さん夫妻の家から徒歩5分の場所に建ちました。理想的な距離でした。孫が遊びに来る。週末には一緒に食事をする。成長を間近で見られることは、夫婦にとって大きな楽しみでした。
国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、いずれの親とも同居していない妻のうち、妻方・夫方のいずれか「近いほうの母親」との居住距離が「15分未満」の割合は29.4%、「敷地内」の8.6%と合わせると、4割近くがすぐに行き来できる距離に住んでいます。
また、親と「近居」している有配偶女性のうち、過去1年間に親から「孫の世話」の支援を受けた割合は30%台(父親35.8〜37.4%、母親30.9〜37.3%)と高く、親と同居している場合とほぼ同水準です。佐伯さん夫妻のように、互いの生活空間を保ちながらも近距離に住み、共働きの子育てをサポートして孫の成長を見守るという選択は、現代の家族における合理的な支え合いの形といえます。
「孫は目に入れても痛くないとは、本当にその通りですね。ある意味、無責任でいられるんです。ただただ、かわいい、かわいいと言っていればいいですから」
佐伯さん夫妻としても祖父母として接する時間は、何ものにも代えがたいものでした。しかし、子育てと孫育ては同じではありません。孫の成長を楽しむことと、日常的に世話を担うことの間には大きな違いがあるのです。
それは、たまの手伝いから始まりました。
「今日だけ保育園のお迎えお願いできる?」
「土曜日、少し見てもらえる?」
佐伯さん夫妻も、できる範囲で応じていました。困ったときに助けるのは親として当然だと思っていたからです。ところが、徒歩5分という距離は、頼る側にとっても頼みやすい距離でした。連絡は週1回程度から、徐々に増えていきました。週末の予定を変更することもありました。夫婦で旅行を計画していても、孫の予定が入れば延期することが増えていったのです。
「断ればいいだけなのかもしれません。でも、すぐ近くにいるのに断るのも気が引けるんです」
美和さんはそう話します。信夫さんも、定年後の生活について別の想定をしていました。
「仕事をしている間は、家族のために時間を使ってきました。退職したら夫婦の時間を増やしたいと思っていたんです」
もちろん、孫と過ごすことが嫌だったわけではありません。むしろ、会えば楽しいし、成長を見ることは嬉しいものです。ただ、気づかないうちに、夫婦の生活リズムが変わっていました。