(※写真はイメージです/PIXTA)
結婚30年、心の奥底に秘めた言葉
「今年もきれいになったな」
墓石についた汚れを確認し、満足そうに言う佐藤和彦さん(56歳・仮名)。隣では妻の真由美さん(54歳・仮名)が、落ち葉を拾っています。
「そうね」
返事はいつも同じです。和彦さんは、決して悪い夫ではありません。休日には料理もします。家事も分担してきました。娘の学校行事にも参加してきました。
結婚30年。夫婦仲が悪いわけではありません。それでも真由美さんには、和彦さんに一度も伝えたことのない本音があります。
「佐藤家の嫁として、このお墓には入りたくない」
その気持ちは、ここ数年で突然生まれたものではありません。30年間、少しずつ積み重なったものでした。和彦さんは、地方にある佐藤家の本家の長男として育ちました。家督制度が色濃く残る地域で、実家には先祖代々の仏壇があり、敷地内には一族の墓があります。
現在、佐藤さん夫婦はマイホームで暮らしています。住宅ローン残高は約420万円。4年後には完済予定です。夫婦の預貯金と投資資産は約2,300万円。老後の生活費についても、夫婦で何度も話し合ってきました。65歳以降は夫婦合わせて月約30万円の年金収入を見込んでいます。
お金の不安はありませんが、真由美さんはずっと気になっていることがあります。
「これから先も、私は本家の嫁なのだろうか」
和彦さんと結婚したのは、真由美さんが24歳のとき。結婚の挨拶で初めて本家を訪れた日。親族が集まる中で、義父が笑いながら言いました。
「これからは佐藤家の嫁だからな」
その場では、みんな笑っていました。真由美さんも笑いました。昔ながらの冗談だと思っていました。