内閣府『令和8年版 高齢社会白書』によると、高齢者世帯の多くが単独または夫婦のみで暮らしています。離れて暮らす親が増える一方、認知機能の低下は電話だけでは気づきにくく、異変が表面化したときには生活環境が深刻な状態になっていることも少なくありません。ある母子の事例を通して、その実態を見ていきます。
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週1回の電話「元気?」「元気よ」の代償

健一さんは、週1回、和子さんに電話をしていました。 「元気?」 「元気よ」 その程度のやり取りだったといいます。それで安心していたのです。しかし、近所への聞き取りを進めると、さらに驚く話が出てきました。

 

「最近は同じ物を何度も買っていましたよ」

「ごみの日を忘れることが増えていました」

「夜中に家の前を歩いているのを見ました」

 

誰も決定的な異変とは思わず、声をかける程度で終わっていた形でした。

 

健一さんは地域包括支援センターへ相談。職員が家の様子を確認したのち、まずは認知機能の評価を勧められました。結果は、軽度認知障害が疑われる状態でした。

 

「もっと早く相談していれば」

 

健一さんは思わず漏らしました。すると職員は静かに答えます。

 

「多くのご家族が同じことをおっしゃいます。電話では、なかなか分からないんですよ」

 

実際、和子さんは電話になると受け答えだけはしっかりしていました。一方で、服薬はできておらず、通院日も忘れています。賞味期限切れの食品を口にし、洗濯機には濡れた衣類が何日も入ったままでした。生活全体が少しずつ崩れていたのです。

 

介護認定の申請後、週2回の訪問介護と配食サービスの利用が始まりました。生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)(2024年度)』によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計が平均47.2万円、月々の費用が平均9.0万円。ただ健一さんの場合、帰省するには時間もお金もかかります。何度も足を運ぶことはできません。

 

「このまま、母を一人暮らしさせるわけにはいかない。施設も探していかないと……」