半年ぶりの実家で直面した衝撃
東京都内で会社員として働く佐藤健一さん(50歳・仮名)は、地方都市で一人暮らしを続ける母、佐藤和子さん(80歳・仮名)のことを「まだ元気な人」だと思っていました。
父は5年前に亡くなり、和子さんの収入は基礎年金と父の遺族年金を合わせた月約15万円の年金のみ。築42年の持ち家で、住宅ローンは完済しています。固定資産税の積立や光熱費を差し引いても、毎月の生活費は12万円ほどに収まり、預貯金も1,000万円ほどはあると聞いていました。
「お金の心配はないから」
母はそう言い続けてきました。健一さんも仕事や、大学生と高校生の子どもの教育費に追われている身。住宅ローンは残り1,180万円あり、毎月の返済は9万2,000円。決して余裕があるとはいえない状況です。実家へ帰省するには1人5万円程度かかるため、帰省するのは毎年正月のみでした。
ただこのときは、仕事で実家近くまで行くことになったので、「せっかくなら」と1泊することにしました。半年以上ぶりの帰省。そしてそれが、事の始まりでした。
健一さんは仕事を終えたあと、すぐに実家に向かいました。玄関を開けようと合鍵を手にしたとき、ある違和感を覚えたといいます。新聞が何日分も郵便受けからあふれ、玄関には段ボール箱が積まれて靴を置く場所もありません。
「お母さん、これ、どうしたの…?」
返事はありませんでした。居間に進むと、テーブルの上には食べかけの総菜、期限切れの牛乳、開封したままの菓子袋が並んでいます。床には衣類とチラシが重なり、足の踏み場がほとんどありません。台所の流しには食器が積み上がり、生ごみの袋が何個も放置されていました。その奥で、和子さんはテレビを見ていました。
「片付けようと思ってたのよ。時間がなくて」
穏やかな口調でした。しかし健一さんは、和子さんが同じ言葉を数分後にもう一度繰り返したことに気づきます。
「散らかっていてごめんね。片付けようと思っていたのよ」
冷蔵庫を開けると、同じ豆腐が5丁、納豆が7パック入っていました。レシートを確認すると、近所のスーパーで毎日のように少額の買い物をしています。一方で、水道料金の督促状がテーブルの下から見つかりました。電気料金も2カ月滞納しています。通帳を見ると年金はきちんと振り込まれていましたが、引き落とし日に口座へ入金し直すことを忘れ、支払いが止まっていたのです。財布には1万円札が何枚も入っていました。
「お金はあるの。払えていないだけ」
内閣府『令和8年版 高齢社会白書』によると、65歳以上で一人暮らしをする人の割合は令和2年時点で男性15.0%、女性22.1%と増加し続けています。家族と離れて暮らす期間が長くなるほど、こうした日常生活の小さな変化を把握しにくくなるのが現実なのです。