(※写真はイメージです/PIXTA)
妻がいなくなった食卓
「夕方になると、スーパーを3軒回ります。狙うのは半額シールです」 佐々木恒一さん(78歳・仮名)は、3年前に妻をがんで亡くし、現在は神奈川県内の築40年を超える分譲マンションで一人暮らしを続けています。
現役時代は機械部品メーカーの営業職として38年間勤務し、退職金は約1900万円でした。その一部で住宅ローンを完済し、残りは預貯金として残しました。
「退職した頃は、これだけあれば十分だと思っていました」
現在の収入は、老齢年金が月約15万円です。そのうち管理費・修繕積立金が2万4000円、水道光熱費がおよそ1万6000円、固定資産税を月割りで約8000円、生命保険料などを含めると、生活を始める前の時点で毎月約5万円が消えます。残る約10万円で食費や日用品、医療費を賄っています。
妻が元気だったころの毎日の食事は手作りでした。しかし佐々木さんは、ほとんど料理をしてきませんでした。
「包丁もまともに使えません。妻が全部やってくれていましたから」
一人になってからは弁当や総菜が食卓の中心です。ところが、その出来合いの食品こそ、値上がりの影響を強く受けていました。
「前は398円だった弁当が498円、今は598円なんて珍しくありません。100円、200円なら大したことないと思っていました。でも毎日のことですから」
総務省の消費者物価指数でも、食料価格は継続して上昇しています。特に外食や調理食品などは家計への影響が大きく、手作りが難しい高齢単身世帯ほど負担を感じやすい状況です。
「自炊すれば安いと言われても……私には難しい」
現在の食費は月4万円前後です。それでも以前より1万円ほど増えています。年金額は多少改定されても、物価の上昇に追いついたとは感じられません。そのため、買い物の時間を変え、午後7時を過ぎると値引きが始まるスーパーへ向かいます。最初の店で希望の商品がなければ、次の店へ移動します。
「割引シールが貼られるまで売り場を歩き回ることもあります。貼られた瞬間に何人も手が伸びます」
以前なら気にも留めなかった総菜が、今では「今日は買えるかどうか」を左右する存在になりました。
「定価では、もう手が出ません。2割引きや3割引きでも厳しい。半額ほど割引されたものを探します」
冷蔵庫には、値引きされたコロッケや焼き魚、唐揚げが並びます。野菜は価格を見て諦める日もあります。果物は何カ月も買っていません。
「本当は甘党だから、ちょっと食後に欲しくなるんだけれど……我慢だね」
医療費も無視できません。高血圧と糖尿病の薬代は月約8000円です。エアコンも以前ほど使わなくなりました。 「電気代の請求書を見るのが嫌なんです」 節約を積み重ねても、預金は少しずつ減っています。