2020年代半ばから続く物価上昇は、いまやシニア世代の生活を脅かす最大の脅威となっています。年金の支給額が物価の伸びに追いつかない構造のなかで、さらに数年後には「団塊の世代」がすべて80代に達し、医療や介護の自己負担増の波が押し寄せるのは確実です。このような不確実性の高い時代において、夫婦が別れ、1人で生き抜こうとすることは、それだけで大きなリスクを背負うことにもなり得ます。本記事ではFPの川淵ゆかり氏が、Aさんの事例から、熟年離婚が孕むリスクについて解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
「俺のサラリーマン人生は何だったんだ…」“退職金900万円・現在無収入”61歳元会社員夫の虚無感。パート妻に気兼ねし〈昔の息子の部屋〉で寝起き、残された漫画とゲームに夜な夜な耽る定年ライフ (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者を襲う「物価上昇」、医療・介護の壁

いまの日本では、物価上昇が高齢者の“最大の敵”といえるでしょう。年金額は上がっても、マクロ経済スライドにより物価上昇分までは上がらないため、実質マイナスの生活となります。そして、この物価上昇はいつ終わるかわからないのが現状です。

 

たとえば、毎年2%ずつ物価が上昇すると、生活費の支出は10年後には現在の約1.22倍、20年後には約1.49倍まで増えることになります。老後の「前半」は、働くこともできるほど体が元気な人も多いでしょうが、「後半」に差し掛かると病気になったり介護状態になったりするリスクが高まります。

 

日本では、2030年に団塊世代がすべて80代になるため、医療・介護の社会保障費も大きくなることで国の財政面が課題です。老人施設も人手不足や費用の問題で入居も難しくなってくることが予想され、自宅介護も増えてくるでしょう。

 

よほど我慢できないのであれば別ですが、離婚はできるだけ避け、夫婦で助け合いながら仲良く暮らせるよう努めるほうが家計の面でメリットが大きいです。

夜間警備で社会復帰

Aさんは考えを改め、夜間警備の仕事を始めました。妻とは生活時間のズレがあるため、相変わらず息子の部屋で寝ていますが、できるだけ自分から前向きに会話をするように努め、休みの日は妻を誘って一緒に出掛けるように。また、かつては妻任せだった家事も、できる限り進んでやるように役割を買って出ています。自分の姿勢を変えたことで、ただ時間をやり過ごすためだけに図書館へ逃げ込む必要もなくなりました。いまでは、妻の口から別れ話が出ることもありません。

 

「現実から目を背け、ただ無料の空間に座り込んで時間を潰していたころの自分を思い出すと、あのままでは本当に自分は終わっていたな、と感じます。考えると妻に甘えていたような生活でした。夫婦生活を続けるにも努力が必要ですね」

 

そう語るAさんの表情には、社会との繋がりを取り戻した充実感が漂っています。

 

「先日、皿を洗っていたら妻が『ありがとう』といってくれたんです。僕も『いつも食事を作ってくれてありがとう』といいました。妻に『ありがとう』なんていったのは新婚以来かな」と笑って答えてくれました。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

 

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