近年、フリーランスや個人事業主などの不安定な雇用形態が増加するなか、国民年金保険料の未納問題が深刻化しています。日本年金機構の最新の業務計画によると、所得が一定以上で未納期間が長い滞納者に対しては、例外なく督促状が送付され財産調査が開始されるなど、強制徴収の基準が厳格化されています。背景には、日々の生活困窮から保険料の支払いを後回しにせざるを得ない困窮層の増加があります。そんな社会課題に直面している一つの事例を通して、その実態をみていきます。
ふざけるな!「年金月20万円・70代夫婦」を戦慄させた一通の最終催告状。元凶は「42歳息子」に届いた差出人・日本年金機構の「赤い封筒」 写真はイメージです/PIXTA

とことん無駄を削る高齢夫婦の切実な日常

食卓に並んだのは、ご飯とみそ汁、あるいは、もやし炒め。2人分の夕食代は100円を切ります。

 

「今日はもやしが安くて、助かったよ」

 

佐藤正一さん(74歳・仮名)の妻、正美さん(72歳・仮名)は夕食の支度をしながらそう話しました。

 

夫婦の収入は、2人分の公的年金だけです。正一さんが月13万円、正美さんが7万円で、合計約20万円。手取りにすると、月18万円ほどです。地方都市にある築45年の持ち家は住宅ローンこそ終わりましたが、固定資産税の積立、光熱費、通信費といった固定費に、毎年のように増えていく医療費を考えると余裕はありません。2人の食費は月1万円以内と決めています。とことん無駄を削る――そんな生活を続けていました。

 

それでも夫婦には、削れない支出があったのです。東京で一人暮らしをする長男の健太さん(42歳・仮名)への送金です。

 

健太さんはIT系のフリーランスとして働いています。年収はおよそ520万円。一見すれば安定した生活に見えますが、実態は違います。月収にしたら40万円強ですが、事業経費などを差し引き、実際に生活費に回せる金額は月22万円ほどだといいます。そこから家賃9万円のほか、光熱費・通信費などの固定費を差し引くと、収支はトントンでした。

 

またフリーランスのため、収入には波がありました。収入がゼロというときも一度や二度ではありません。そのような生活のなかで、「今月だけ頼む」と親に頼み込むことも珍しくなかったのです。そしてそんな電話が来るたびに、夫婦は3万円、多い月は5万円を振り込みました。

 

「親だから仕方ありません」

 

そのようななか、おざなりになっていたものがありました。国民年金保険料です。

 

「生活するだけで精いっぱいだった。後で払えばいいと思っていた」と健太さんは振り返ります。そしてその判断が、家族全体を追い詰めることになります。